風の中


05372
めざましき飜意など身に遠くして白足袋かたくはきしめて出づ
メザマシキ ホンイナドミニ トオクシテ シロタビカタク ハキシメテイヅ

『形成』(形成発行所 1957.6) 第5巻6号(通巻50号) p.7


05373
山の駅のながき停車に女ひとり向きを変へつつ麦踏める見ゆ
ヤマノエキノ ナガキテイシャニ オンナヒトリ ムキヲカヘツツ ムギフメルミユ

『形成』(形成発行所 1957.6) 第5巻6号(通巻50号) p.7


05374
いつのまに東京を去りし友ならむ風の中に麦踏む日々と告げ来ぬ
イツノマニ トウキョウヲサリシ トモナラム カゼノナカニムギフム ヒビトツゲキヌ

『形成』(形成発行所 1957.6) 第5巻6号(通巻50号) p.7


05375
入学式に子を連れゆきし使丁の仕事を分担してなごむ今朝の事務室
ニュウガクシキニ コヲツレユキシ シテイノシゴトヲ ブンタンシテナゴム ケサノジムシツ

『形成』(形成発行所 1957.6) 第5巻6号(通巻50号) p.7


05376
ひき返す余力も今は持たぬ身にゆくてをふさぐ海見えて来つ
ヒキカエス ヨリョクモイマハ モタヌミニ ユクテヲフサグ ウミミエテキツ

『形成』(形成発行所 1957.6) 第5巻6号(通巻50号) p.7


05377
もはやわがのがれがたかる思ひして灼けたる岩に掌を当つ
モハヤワガ ノガレガタカル オモヒシテ ヤケタルイワニ テノヒラヲアツ

『形成』(形成発行所 1957.6) 第5巻6号(通巻50号) p.7


05378
綱張りて光る帯などひろげ干す去らむ日近き部屋乱しつつ
ツナハリテ ヒカルオビナド ヒロゲホス サラムヒチカキ ヘヤミダシツツ

『形成』(形成発行所 1957.7) 第5巻7号(通巻51号) p.6