秋近く


05397
秋づける日々雲の層深くして退嬰を拒むみづからのこゑ
アキヅケル ヒビクモノソウ フカクシテ タイエイヲコバム ミヅカラノコヱ

『形成』(形成発行所 1957.10) 第5巻10号(通巻54号) p.11


05398
母の死を告げてをさなき少女の手紙漁期過ぎし三陸の浜も憶ほゆ
ハハノシヲ ツゲテヲサナキ ショウジョノテガミ ギョキスギシサンリクノ ハマモオボホユ

『形成』(形成発行所 1957.10) 第5巻10号(通巻54号) p.11


05399
藩史の空白埋めむてだてと托されて幾夜読みつぐ儒者の日録
ハンシノクウハク ウメムテダテト タクサレテ イクヨヨミツグ ジュシャノニチロク

『形成』(形成発行所 1957.10) 第5巻10号(通巻54号) p.11


05400
うしろ向きの人のみ歩むユトリロの絵と見ゐて不意に心陥る
ウシロムキノ ヒトノミアユム ユトリロノ エトミヰテフイニ ココロオチイル

『形成』(形成発行所 1957.10) 第5巻10号(通巻54号) p.11


05401
責め立つる自らの声にめざめたり夢の中にてわれははげしき
セメタツル ミヅカラノコエニ メザメタリ ユメノナカニテ ワレハハゲシキ

『形成』(形成発行所 1957.10) 第5巻10号(通巻54号) p.11


05402
蒼みゆく花浮べつつ昏るる水愛憎を超えて会はむ日ありや
アオミユク ハナウカベツツ クルルミズ アイゾウヲコエテ アハムヒアリヤ

『形成』(形成発行所 1957.10) 第5巻10号(通巻54号) p.11


05403
夜霧の底を歩みつつゐて何の花かわれを虐む香と思ひたり
ヨギリノソコヲ アユミツツヰテ ナンノハナカ ワレヲサイナム カトオモヒタリ

『形成』(形成発行所 1957.10) 第5巻10号(通巻54号) p.11