春信


05453
丘の上の木立が透かす雪の峯日々に恋ひつつ斑雪をわたる
オカノウエノ コダチガスカス ユキノミネ ヒビニコヒツツ ハダレヲワタル

『形成』(形成発行所 1958.5) 第6巻5号(通巻61号) p.3


05454
風落ちて夜霧は街を蔽はむにあなうら冷えてながく醒めゐる
カゼオチテ ヨギリハマチヲ オオハムニ アナウラヒエテ ナガクサメヰル

『形成』(形成発行所 1958.5) 第6巻5号(通巻61号) p.3


05455
みづうみの水晦みつつ対岸は黄玉いろにそよぐ枯れ原
ミヅウミノ ミズクラミツツ タイガンハ トパーズイロニ ソヨグカレハラ

『形成』(形成発行所 1958.5) 第6巻5号(通巻61号) p.3


05456
何待つとあてもなけれど花蘇芳低き枝より咲き満ちてゆく
ナニマツト アテモナケレド ハナズハウ ヒクキエダヨリ サキミチテユク

『形成』(形成発行所 1958.5) 第6巻5号(通巻61号) p.3


05457
よりどなき午後となりつつかたはらの棚は帳簿の重みに撓ふ
ヨリドナキ ゴゴトナリツツ カタハラノ タナハチョウボノ オモミニシナフ

『形成』(形成発行所 1958.5) 第6巻5号(通巻61号) p.3


05458
闇と闇をつなぎてひらく門ありき寂しみて夜の大橋渡る
ヤミトヤミヲ ツナギテヒラク モンアリキ サビシミテヨルノ オオハシワタル

『形成』(形成発行所 1958.5) 第6巻5号(通巻61号) p.3


05459
方形に裁ちし小布を次々につなぎつつ繻子の緋いろ紛れず
ホウケイニ タチシコギレヲ ツギツギニ ツナギツツシュスノ ヒイロマギレズ

『形成』(形成発行所 1958.5) 第6巻5号(通巻61号) p.3