季秋


05490
目に見えず何よぎるとも知れぬ空仰ぎつつ無告の一人かわれも
メニミエズ ナニヨギルトモ シレヌソラ アオギツツムコクノ ヒトリカワレモ

『形成』(形成発行所 1958.12) 第6巻12号(通巻68号) p.3


05491
句読点うちあぐみつつ書く書類午後は耳のみ敏くなりゐて
クトウテン ウチアグミツツ カクショルイ ゴゴハミミノミ サトクナリヰテ

『形成』(形成発行所 1958.12) 第6巻12号(通巻68号) p.3


05492
いつの日につかむ勝負か惑ひつつ書く文字罫を越ゆることなし
イツノヒニ ツカムショウブカ マドヒツツ カクモジケイヲ コユルコトナシ

『形成』(形成発行所 1958.12) 第6巻12号(通巻68号) p.3


05493
対岸の楢の林に陽のさして間なく落葉の降る見つつ過ぐ
タイガンノ ナラノハヤシニ ヒノサシテ マナクオチバノ フルミツツスグ

『形成』(形成発行所 1958.12) 第6巻12号(通巻68号) p.3


05494
菜種蒔き麦蒔き峡の日々晴れてしづけく冬を待つ一部落
ナタネマキ ムギマキカヒノ ヒビハレテ シヅケクフユヲ マツイチブラク

『形成』(形成発行所 1958.12) 第6巻12号(通巻68号) p.3


05495
襟刳りの深きさみしさ旅の夜に失ひしブローチのゆゑのみならず
エリグリノ フカキサミシサ タビノヨニ ウシナヒシブローチノ ユヱノミナラズ

『形成』(形成発行所 1958.12) 第6巻12号(通巻68号) p.3


05496
迂闊なる言葉あやぶみ聽きゐしがデッキに立てばわれより高し
ウカツナル コトバアヤブミ キキヰシガ デッキニタテバ ワレヨリタカシ

『形成』(形成発行所 1958.12) 第6巻12号(通巻58号) p.3