夕かげ


05515
鍵束のごときを鳴らし過ぎゆける人ありたどきなき夕闇に
カギタバノ ゴトキヲナラシ スギユケル ヒトアリタドキ ナキユウヤミニ

『形成』(形成発行所 1959.5) 第7巻5号(通巻73号) p.3


05516
泥み易きわれと思ひて寂しきにゆであげし三葉切り揃へゆく
ナヅミヤスキ ワレトオモヒテ サビシキニ ユデアゲシミツバ キリソロヘユク

『形成』(形成発行所 1959.5) 第7巻5号(通巻73号) p.3


05517
沖をゆく船のあかりに執しゐしひととき過ぎて還るさみしさ
オキヲユク フネノアカリニ シフシヰシ ヒトトキスギテ カエルサミシサ

『形成』(形成発行所 1959.5) 第7巻5号(通巻73号) p.3


05518
竹群の響みにながく醒めゐしか思ひめぐらす詭策も無きに
タカムラノ トヨミニナガク サメヰシカ オモヒメグラス キサクモナキニ

『形成』(形成発行所 1959.5) 第7巻5号(通巻73号) p.3


05519
真実を知りゐることも負ひめとし船は近づく東京の灯へ
シンジツヲ シリヰルコトモ オヒメトシ フネハチカヅク トウキョウノヒヘ

『形成』(形成発行所 1959.5) 第7巻5号(通巻73号) p.3


05520
筋書きのやうには運ばぬ心かとながく跼めりベゴニアの芽に
スジガキノ ヤウニハハコバヌ ココロカト ナガクカガメリ ベゴニアノメニ

『形成』(形成発行所 1959.5) 第7巻5号(通巻73号) p.3


05521
春めきてゆく朝々に着惑ひて変りばえせぬ服ばかり持つ
ハルメキテ ユクアサアサニ キマドヒテ カワリバエセヌ フクバカリモツ

『形成』(形成発行所 1959.5) 第7巻5号(通巻73号) p.3