秋近く


05541
靄厚き夜となりゐたり朱筆を洗ひたる水捨てに出づれば
モヤアツキ ヨトナリヰタリ シユフデヲ アラヒタルミズ ステニイヅレバ

『形成』(形成発行所 1959.11) 第7巻11号(通巻79号) p.5


05542
職替へて東京に住むといふ夫の噂針磨きゐる母には告げず
ショクカヘテ トウキョウニスムトイフ ツマノウワサ ハリミガキヰル ハハニハツゲズ

『形成』(形成発行所 1959.11) 第7巻11号(通巻79号) p.5


05543
まざまざと憎みて塗り潰しゐたりしが醒めては誰の像とも分ず
マザマザト ニクミテヌリツブシ ヰタリシガ サメテハタレノ ゾウトモワカズ

『形成』(形成発行所 1959.11) 第7巻11号(通巻79号) p.5


05544
鰻とる細工して畦にゐる児らの下駄乾きつつ道にちらばる
ウナギトル サイクシテアゼニ ヰルコラノ ゲタカワキツツ ミチニチラバル

『形成』(形成発行所 1959.11) 第7巻11号(通巻79号) p.6


05545
先立てる背読みつつ従きゆくと朝より鈍りやすき心ぞ
サキタテル ソビラヨミツツ ツキユクト アサヨリナマリ ヤスキココロゾ

『形成』(形成発行所 1959.11) 第7巻11号(通巻79号) p.6