霜月抄


05552
落ちのびし思ひに歩む霧のなか野飼ひの馬の影ら漂ふ
オチノビシ オモヒニアユム キリノナカ ノガヒノウマノ カゲラタダヨフ

『形成』(形成発行所 1960.1) 第8巻1号(通巻81号) p.74


05553
身を逼むる不文の掟思ふ夜もミモザがこぼす黄なる花びら
ミヲセムル フブンノオキテ オモフヨモ ミモザガコボス キナルハナビラ

『形成』(形成発行所 1960.1) 第8巻1号(通巻81号) p.74


05554
編みさしのまま夏を越せしセーターも肩冷ゆる夜のかなしみ誘ふ
アミサシノ ママナツヲコセシ セーターモ カタヒユルヨノ カナシミサソフ

『形成』(形成発行所 1960.1) 第8巻1号(通巻81号) p.74


05555
猥雑に過ぎむ予感すストーブのほこり朝より椅子に浮きゐて
ワイザツニ スギムヨカンス ストーブノ ホコリアサヨリ イスニウキヰテ

『形成』(形成発行所 1960.1) 第8巻1号(通巻81号) p.75


05556
指先の傷に丁幾はにじみゆき堰きとめがたくなりゐる言葉
ユビサキノ キズニチンキハ ニジミユキ セキトメガタク ナリヰルコトバ

『形成』(形成発行所 1960.1) 第8巻1号(通巻81号) p.75


05557
音程をはづせしままに弾きつげる絃とも暗き年月流る
オンテイヲ ハヅセシママニ ヒキツゲル ゲントモクラキ トシツキナガル

『形成』(形成発行所 1960.1) 第8巻1号(通巻81号) p.75