残冬抄


05558
石仏の膝に小石の積まれゐて陽あたる坂は古利根の土手
セキブツノ ヒザニコイシノ ツマレヰテ ヒアタルサカハ フルトネノドテ

『形成』(形成発行所 1960.3) 第8巻3号(通巻83号) p.3


05559
枯れ原のかなたまばらに人動き酸度調べむ土を採りゐる
カレハラノ カナタマバラニ ヒトウゴキ サンドシラベム ツチヲトリヰル

『形成』(形成発行所 1960.3) 第8巻3号(通巻83号) p.3


05560
みづからの吐きし言葉に縛られむ森ゆけば木々の生傷匂ふ
ミヅカラノ ハキシコトバニ シバラレム モリユケバキギノ ナマキズニオフ

『形成』(形成発行所 1960.3) 第8巻3号(通巻83号) p.3


05561
さまよへる心をしばし跼まりて見れば松笠に点る火のいろ
サマヨヘル ココロヲシバシ クグマリテ ミレバチヂリニ トモルヒノイロ

『形成』(形成発行所 1960.3) 第8巻3号(通巻83号) p.3


05562
ネオンの天馬仰ぎゆきつつ病む母に待たれゐる身を紛し得ず
ネオンノテンマ アオギユキツツ ヤムハハニ マタレヰルミヲ マギラハシエズ

『形成』(形成発行所 1960.3) 第8巻3号(通巻83号) p.3


05563
ニコチンの害など説きてさりげなき人より奪ひたき言葉あり
ニコチンノ ガイナドトキテ サリゲナキ ヒトヨリウバヒ タキコトバアリ

『形成』(形成発行所 1960.3) 第8巻3号(通巻83号) p.3


05564
まとまりを取り戻しゆく夜の心検温の手をあたためてゐて
マトマリヲ トリモドシユク ヨノココロ ケンオンノテヲ アタタメテヰテ

『形成』(形成発行所 1960.3) 第8巻3号(通巻83号) p.3


05565
朝よりきざす寂しさ繊切りの人参を母の粥にまぜゐて
アシタヨリ キザスサビシサ センギリノ ニンジンヲハハノ カユニマゼヰテ

『形成』(形成発行所 1960.3) 第8巻3号(通巻83号) p.3