矢車の空


05566
桐の花咲く野となりて携ふる母亡きことをかたみに言はず
キリノハナ サクノトナリテ タズサフル ハハナキコトヲ カタミニイハズ

『形成』(形成発行所 1960.6) 第8巻6号(通巻86号) p.8


05567
立ち直りゆき得ぬわれと思はねどしんしんと冴えて黄の杜若
タチナオリ ユキエヌワレト オモハネド シンシントサエテ キノカキツバタ

『形成』(形成発行所 1960.6) 第8巻6号(通巻86号) p.8


05568
苛立てるさまに立ち来て病める母を寂しがらせし夜を忘れ得ず
イラダテル サマニタチキテ ヤメルハハヲ サビシガラセシ ヨヲワスレエズ

『形成』(形成発行所 1960.6) 第8巻6号(通巻86号) p.8


05569
飾窓のネクタイと影と入り乱れ交はす言葉の齟齬のみひらく
ウインドウノ ネクタイトカゲト イリミダレ カハスコトバノ ソゴノミヒラク

『形成』(形成発行所 1960.6) 第8巻6号(通巻86号) p.8


05570
臘梅の枝を矯めつつ告げざればいつまでも裡に匂へる言葉
ロウバイノ エダヲタメツツ ツゲザレバ イツマデモウチニ ニオヘルコトバ

『形成』(形成発行所 1960.6) 第8巻6号(通巻86号) p.8


05571
環礁に湛ふる水を恋ひゐしがなまあたたかき睡りは襲ふ
カンショウニ タタフルミズヲ コヒヰシガ ナマアタタカキ ネムリハオソフ

『形成』(形成発行所 1960.6) 第8巻6号(通巻86号) p.8


05572
きりもなくほつれゆきしは何の糸醒めしうつつに矢車が鳴る
キリモナク ホツレユキシハ ナンノイト サメシウツツニ ヤグルマガナル

『形成』(形成発行所 1960.6) 第8巻6号(通巻86号) p.8


05573
幾たびかシグナルに夜の靄きざしつひに聴き得ぬ語彙かも知れず
イクタビカ シグナルニヨノ モヤキザシ ツヒニキキエヌ ゴイカモシレズ

『形成』(形成発行所 1960.6) 第8巻6号(通巻86号) p.8