香華


05574
さまよへる母の霊など信じねど香たけばややに心鎮まる
サマヨヘル ハハノレイナド シンジネド コウタケバヤヤニ ココロシズマル

『形成』(形成発行所 1960.10) 第8巻10号(通巻90号) p.3


05575
海風に余韻奪はれつつ質し合ひし言葉も過ぎて還らず
ウミカゼニ ヨインウバハレ ツツタダシ アヒシコトバモ スギテカエラズ

『形成』(形成発行所 1960.10) 第8巻10号(通巻90号) p.3


05576
人のさす黒の蝙蝠傘大きくて匿まはれゆく錯覚あまし
ヒトノサス クロノコウモリ オオキクテ カクマハレユク サツカクアマシ

『形成』(形成発行所 1960.10) 第8巻10号(通巻90号) p.3


05577
中年の智恵強ひられてゆく日々か流木を洗ひながき上げ潮
チュウネンノ チエシヒラレテ ユクヒビカ リュウボクヲアラヒ ナガキアゲシオ

『形成』(形成発行所 1960.10) 第8巻10号(通巻90号) p.3


05578
卓効を信じて母は飲みゐしや散楽の残り袋ごと燃す
タッコウヲ シンジテハハハ ノミヰシヤ サンヤクノノコリ フクロゴトモス

『形成』(形成発行所 1960.10) 第8巻10号(通巻90号) p.3


05579
傷口より蘇りきといふ言葉秋深みゆく日々に思ほゆ
キズグチヨリ ヨミガエリキト イフコトバ アキフカミユク ヒビニオモホユ

『形成』(形成発行所 1960.10) 第8巻10号(通巻90号) p.3


05580
葉の深くなれる秋海棠父母の墓をめぐりて咲かむ日近し
ハノフカク ナレルベゴニア チチハハノ ハカヲメグリテ サカムヒチカシ

『形成』(形成発行所 1960.10) 第8巻10号(通巻90号) p.3