初冬抄


05581
噴水の元栓をとめて人去れば森より早くこころかげりぬ
フンスイノ モトセンヲトメテ ヒトサレバ モリヨリハヤク ココロカゲリヌ

『形成』(形成発行所 1961.1) 第9巻1号(通巻93号) p.3


05582
なほざりに告げ来し語彙の疼くまま塩打ちて置く鯖の半身に
ナホザリニ ツゲコシゴイノ ウヅクママ シオウチテオク サバノハンミニ

『形成』(形成発行所 1961.1) 第9巻1号(通巻93号) p.3


05583
手口の似たることなど言ひ合へど人垣くづれ雨となる辻
テグチノ ニタルコトナド イヒアヘド ヒトガキクヅレ アメトナルツジ

『形成』(形成発行所 1961.1) 第9巻1号(通巻93号) p.3


05584
つなぎ得ぬ断片として持つ記憶夢にしてあらぬ順につながる
ツナギエヌ ダンペントシテ モツキオク ユメニシテアラヌ ジュンニツナガル

『形成』(形成発行所 1961.1) 第9巻1号(通巻93号) p.3


05585
英文の手紙など呉れて寂しきか夜のへだたりに雪降りしきる
エイブンノ テガミナドクレテ サビシキカ ヨノヘダタリニ ユキフリシキル

『形成』(形成発行所 1961.1) 第9巻1号(通巻93号) p.3


05586
亡き母の縫ひ残したる裾を綴ぢいつまで脆き心と思ふ
ナキハハノ ヌヒノコシタル スソヲトヂ イツマデモロキ ココロトオモフ

『形成』(形成発行所 1961.1) 第9巻1号(通巻93号) p.3