早春抄


05698
音もなくひろがる野火の遠景をバスの窓より見つつ過ぎゆく
オトモナク ヒロガルノビノ エンケイヲ バスノマドヨリ ミツツスギユク

『形成』(形成発行所 1963.5) 第11巻5号(通巻121号) p.3


05699
篠懸の裸木めやすに曲りしが訪なふ心なほ定まらず
スズカケノ ラボクメヤスニ マガリシガ オトナフココロ ナホサダマラズ

『形成』(形成発行所 1963.5) 第11巻5号(通巻121号) p.3


05700
生活にまみるる心果てなきに日々にほぐれて咲く薔薇の花
セイカツニ マミルルココロ ハテナキニ ヒビニホグレテ サクバラノハナ

『形成』(形成発行所 1963.5) 第11巻5号(通巻121号) p.3


05701
畳屋が針光らせてゐる路傍立ちどまり腕の喪章をはづす
タタミヤガ ハリヒカラセテ ヰルロボウ タチドマリウデノ モショウヲハヅス

『形成』(形成発行所 1963.5) 第11巻5号(通巻121号) p.3


05702
オリオンの位置も漸く移ろふと春の疾風の夜々帰りゆく
オリオンノ イチモヨウヤク ウツロフト ハルノハヤテノ ヨヨカエリユク

『形成』(形成発行所 1963.5) 第11巻5号(通巻121号) p.3