日常抄


05740
錐揉みて分厚き帳簿綴ぢゆけり立ち直りゐる午後の心に
キリモミテ ブアツキチョウボ トヂユケリ タチナオリヰル ゴゴノココロニ

『形成』(形成発行所 1963.10) 第11巻10号(通巻126号) p.6


05741
去年の落葉今年の落葉積み溜めてそよぐともなく濡るる竹群
コゾノオチバ コトシノオチバ ツミタメテ ソヨグトモナク ヌルルタカムラ

『形成』(形成発行所 1963.10) 第11巻10号(通巻126号) p.6


05742
トラックの過ぎゆく風に煽られし煙ふたたび視野をとざさむ
トラックノ スギユクカゼニ アオラレシ ケムリフタタビ シヤヲトザサム

『形成』(形成発行所 1963.10) 第11巻10号(通巻126号) p.6


05743
弾き見てグラス選りゆく店先に菰濡れし荷が運び込まれつ
ハジキミテ グラスヨリユク ミセサキニ コモヌレシニガ ハコビコマレツ

『形成』(形成発行所 1963.10) 第11巻10号(通巻126号) p.6


05744
古びたる黒のコートよかの日々もかなしみ深く坂を下りき
フルビタル クロノコートヨ カノヒビモ カナシミフカク サカヲクダリキ

『形成』(形成発行所 1963.10) 第11巻10号(通巻126号) p.6


05745
くるみ釦次々に縫ひ縮めつつ解けぬ符牒のある如き日よ
クルミボタン ツギツギニヌヒ チヂメツツ トケヌフチョウノ アルゴトキヒヨ

『形成』(形成発行所 1963.10) 第11巻10号(通巻126号) p.6


05746
こみあぐる笑ひのごとく立てし声グラスを置けば跡方もなし
コミアグル ワラヒノゴトク タテシコエ グラスヲオケバ アトカタモナシ

『形成』(形成発行所 1963.10) 第11巻10号(通巻126号) p.6