無題


06266
二枚の刃をかさねておけばしづかなるかたちと思ふ机上の鋏
ニマイノハヲ カサネテオケバ シヅカナル カタチトオモフ キジョウノハサミ

『形成』(形成発行所 1974.5) 第22巻5号(通巻253号) p.3


06267
進みぐせの柱時計と知りながらおどろきやすし休みの日にも
ススミグセノ ハシラドケイト シリナガラ オドロキヤスシ ヤスミノヒニモ

『形成』(形成発行所 1974.5) 第22巻5号(通巻253号) p.3


06268
見つからぬままにすぎつつ妹のよく嵌めゐたる珊瑚の耳環
ミツカラヌ ママニスギツツ イモウトノ ヨクハメヰタル サンゴノミミワ

『形成』(形成発行所 1974.5) 第22巻5号(通巻253号) p.3


06269
夢のなかの約束のごとはかなきに詣でむトルコ桔梗を買ひて
ユメノナカノ ヤクソクノゴト ハカナキニ モウデムトルコ キキョウヲカヒテ

『形成』(形成発行所 1974.5) 第22巻5号(通巻253号) p.3


06270
春分の日ざしとなりてわがゆくて紫いろに砂利の浮きたつ
シュンブンノ ヒザシトナリテ ワガユクテ ムラサキイロニ ジャリノウキタツ

『形成』(形成発行所 1974.5) 第22巻5号(通巻253号) p.3


06271
われの身に香の匂ひのするといふ噎せてひさしく香を焚かぬに
ワレノミニ カウノニオヒノ スルトイフ ムセテヒサシク カウヲタカヌニ

『形成』(形成発行所 1974.5) 第22巻5号(通巻253号) p.3


06272
ラ・パロマの目覚し時計また買はむやさしくなさむ朝の思ひを
ラ・パロマノ メザマシドケイ マタカハム ヤサシクナサム アサノオモヒヲ

『形成』(形成発行所 1974.5) 第22巻5号(通巻253号) p.4


06273
針柚子を椀に浮かしてなす夕餉何を食べてもひもじきわれか
ハリユズヲ ワンニウカシテ ナスユウゲ ナニヲタベテモ ヒモジキワレカ

『形成』(形成発行所 1974.7) 第22巻7号(通巻255号) p.31


06274
谷深くたづさひ降りし日のありき栃の実を机の上にころがす
タニフカク タヅサヒオリシ ヒノアリキ トチノミヲツクエノ ウエニコロガス

『形成』(形成発行所 1974.7) 第22巻7号(通巻255号) p.31


06275
どのやうに角度変へてもわれのゐて鏡に映る範囲灰いろ
ドノヤウニ カクドカヘテモ ワレノヰテ カガミニウツル ハンイハイイロ

『形成』(形成発行所 1974.7) 第22巻7号(通巻255号) p.31


06276
襟もとのさびしき朝か鏡のなかのわれにかけやる銀の鎖を
エリモトノ サビシキアサカ カガミノナカノ ワレニカケヤル ギンノクサリヲ

『形成』(形成発行所 1974.7) 第22巻7号(通巻255号) p.31


06277
さわだてる木立の上を流れつつ粗き縞なす何の煙か
サワダテル コダチノウエヲ ナガレツツ アラキシマナス ナンノケムリカ

『形成』(形成発行所 1974.7) 第22巻7号(通巻255号) p.31


06278
考へてもどうにもならず道ばたの菜の花は半ば実となりてゐる
カンガヘテモ ドウニモナラズ ミチバタノ ナノハナハナカバ ミトナリテヰル

『形成』(形成発行所 1974.7) 第22巻7号(通巻255号) p.31


06279
さし潮の色となり来る見つつゐて河の向うはわが知らぬ街
サシシオノ イロトナリクル ミツツヰテ カワノムコウハ ワガシラヌマチ

『形成』(形成発行所 1974.7) 第22巻7号(通巻255号) p.31