雪の稜線


06349
どの家も窓のかたちに灯のともる雪の夜ならむ遠きふるさと
ドノイエモ マドノカタチニ ヒノトモル ユキノヨナラム トオキフルサト

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06350
望遠鏡の奥にとらへし稜線のかすかに青く吹雪けるも見つ
ボウエンキョウノ オクニトラヘシ リョウセンノ カスカニアオク フブケルモミツ

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06351
歩幅こまかに走る子犬を伴ひて歩みゐき人も犬もまぼろし
ホハバコマカニ ハシルコイヌヲ トモナヒテ アユミヰキヒトモ イヌモマボロシ

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06352
自転車の二台渡りて行きしのみ橋の上にも雪は積もらむ
ジテンシャノ ニダイワタリテ ユキシノミ ハシノウエニモ ユキハツモラム

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06353
肩のやや落ちしと思ふ仮縫の鏡に長く向かはされゐて
カタノヤヤ オチシトオモフ カリヌイノ カガミニナガク ムカハサレヰテ

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06354
縷々として歎くを聞れば心疚しわれには告げむことの少なく
ルルトシテ ナゲクヲキケバ ココロヤマシ ワレニハツゲム コトノスクナク

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06355
乱したる呼吸はみづからが知れるのみ手を挙げて遠き車を招く
ミダシタル コキュウハミヅカラガ シレルノミ テヲアゲテトオキ クルマヲマネク

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06356
ハイウエイの夜霧に車を駆りゐつつ急ぐ理由もいつか失ふ
ハイウエイノ ヨギリニクルマヲ カリヰツツ イソグリユウモ イツカウシナフ

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06357
晩年の運ひらけむと言はれ来し手相みなほすすべなきものを
バンネンノ ウンヒラケムト イハレコシ テソウミナホス スベナキモノヲ

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06358
得しものは必ず失ふと知りながら諦めがたきまで持ち古りぬ
エシモノハ カナラズウシナフト シリナガラ アキラメガタキ マデモチフリヌ

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06359
解きものをしをれば心落ちつきてみまかりし人の顔など見え来
トキモノヲ シヲレバココロ オチツキテ ミマカリシヒトノ カオナドミエク

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06360
切り詰めて再び生くる竜胆のみづみづと青し何の証に
キリツメテ フタタビイクル リンドウノ ミヅミヅトアオシ ナンノアカシニ

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06361
黒真珠の粒余すなくつなぎ終へ少し短くなりし首飾
クロシンジュノ ツブアマスナク ツナギオヘ スコシミジカク ナリシクビカザリ

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06362
生きものを飼ふすべもなきひとりゐの軒に来て鳴くいづこの鳩か
イキモノヲ カフスベモナキ ヒトリヰノ ノキニキテナク イヅコノハトカ

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4


06363
何も彼ももとのままよと見回して長き旅より戻れるに似つ
ナニモカモ モトノママヨト ミマワシテ ナガキタビヨリ モドレルニニツ

『形成』(形成発行所 1976.1) 第24巻1号(通巻273号) p.4