無題


06364
表皮より剥きつつ使ふ幾朝にキャベツの軽くなるにもあらず
ヒョウヒヨリ ムキツツツカフ イクアサニ キャベツノカルク ナルニモアラズ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06365
鳴り出づるチャイムを待ちてゐるわれか稀の家居に水使ひつつ
ナリイヅル チャイムヲマチテ ヰルワレカ マレニイエイニ ミズツカヒツツ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06366
真っすぐに立つといふこのさびしさよ花の終れる向日葵の茎
マッスグニ タツトイフコノ サビシサヨ ハナノオワレル ヒマワリノクキ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06367
五階より見おろす夜明け街灯はうすらみどりになりて消えたる
ゴカイヨリ ミオロスヨアケ ガイトウハ ウスラミドリニ ナリテキエタル

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06368
働きて互みに経たる十年に美しかりしタイピストも老いぬ
ハタラキテ カタミニヘタル ジュウネンニ ウツクシカリシ タイピストモオイヌ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06369
洗車場より出づる車に心まで清めしごとき助手席の顔
センシャジョウヨリ イヅルクルマニ ココロマデ キヨメシゴトキ ジョシュセキノカオ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06370
帰り来て帽子をぬげば絵に見たる原人もわれの顔もかはらぬ
カエリキテ ボウシヲヌゲバ エニミタル ゲンジンモワレノ カオモカハラヌ

『形成』(形成発行所 1976.2) 第24巻2号(通巻274号) p.5


06371
働くことは縛むること煩悩の人より濃ゆきわがあけくれに
ハタラクコトハ イマシムルコト ボンノウノ ヒトヨリコユキ ワガアケクレニ

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06372
いくたびも浅瀬を渡る夢なりき水青かりき月の光に
イクタビモ アサセヲワタル ユメナリキ ミズアオカリキ ツキノヒカリニ

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06373
権力に屈するごとく屈するを病のゆゑといへどさびしむ
ケンリョクニ クッスルゴトク クッスルヲ ヤマイノユヱト イヘドサビシム

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06374
はればれと歩むならねば午後三時ビルのあはひの暗がりもよし
ハレバレト アユムナラネバ ゴゴサンジ ビルノアハヒノ クラガリモヨシ

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06375
われの持つ弱味と言はむさだかなる理由なくては何もなし得ぬ
ワレノモツ ヨワミトイハム サダカナル リユウナクテハ ナニモナシエヌ

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06376
見しことのあらぬオーロラ見たる日をたのしげに言ふ傍にゐる
ミシコトノ アラヌオーロラ ミタルヒヲ タノシゲニイフ カタワラニヰル

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06377
食べよとも寝よとも誰も言はざれば目をしばたたく夜の明近く
タベヨトモ ネヨトモタレモ イハザレバ メヲシバタタク ヨノアケチカク

『形成』(形成発行所 1976.4) 第24巻4号(通巻276号) p.5


06378
残業に倦める一人か立ちゆきて回転ドアの光をまはす
ザンギョウニ ウメルヒトリカ タチユキテ カイテンドアノ ヒカリヲマハス

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06379
おのづから強制力を持つならむ声やはらげて言ひても同じ
オノヅカラ キョウセイリョクヲ モツナラム コエヤハラゲテ イヒテモオナジ

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06380
もう一人のわれは冷く客観すしどろもどろになりゐるわれを
モウヒトリノ ワレハツメタク キャクカンス シドロモドロニ ナリヰルワレヲ

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06381
身一つを遊ばしむるにつたなくて駅のほとりの辛夷も終る
ミヒトツヲ アソバシムルニ ツタナクテ エキノホトリノ コブシモオワル

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06382
見し夢の名残りのごとく十日経ていまだはなやぐ蘭ニ茎は
ミシユメノ ナゴリノゴトク トオカヘテ イマダハナヤグ ランフタクキハ

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06383
強かりし男の子もなべて滅びにき矛ふりかざし風化石像
ツヨカリシ オノコモナベテ ホロビニキ ホコフリカザシ フウカセキゾウ

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06384
さわだてる身を薬もて鎮めつつ決断といふも理窟にすぎず
サワダテル ミヲクスリモテ シズメツツ ケツダントイフモ リクツニスギズ

『形成』(形成発行所 1976.6) 第24巻6号(通巻278号) p.4


06385
労働にすさむは言葉のみならずレモンの酸は舌先に沁む
ロウドウニ スサムハコトバ ノミナラズ レモンノサンハ シタサキニシム

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06386
夏薔薇の小さくなりて咲く見れば今に残れる思ひの如き
ナツバラノ チイサクナリテ サクミレバ イマニノコレル オモヒノゴトキ

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06387
見ゆる間は立ちて見送るわが習ひ別れがたくて立つさまに似む
ミユルマハ タチテミオクル ワガナラヒ ワカレガタクテ タツサマニニム

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06388
スプリンクラーの霧の高さの整ひて芝生に無数の虹立ちはじむ
スプリンクラーノ キリノタカサノ トトノヒテ シバフニムスウノ ニジタチハジム

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06389
思はざる高みへ視線のゆく日にて篠懸の秀を渡る風見ゆ
オモハザル タカミヘシセンノ ユクヒニテ スズカケノホヲ ワタルカゼミユ

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06390
念凝りて石となりしといふきけばまだまだ浅きかなしみならむ
ネンコリテ イシトナリシト イフキケバ マダマダアサキ カナシミナラム

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06391
暑き夜のまどろみに見る夢にさへふるさとの山は雪をいただく
アツキヨノ マドロミニミル ユメニサヘ フルサトノヤマハ ユキヲイタダク

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06392
コーヒーの香にたつ真昼合歓の木の作るやさしき木蔭もあらむ
コーヒーノ カニタツマヒル ネムノキノ ツクルヤサシキ コカゲモアラム

『形成』(形成発行所 1976.9) 第24巻9号(通巻281号) p.8


06393
思はざる高みへ視線のゆく日にてみづきの花の真盛りに遇ふ
オモハザル タカミヘシセンノ ユクヒニテ ミヅキノハナノ マサカリニアフ

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06394
信号に堰かれてをれば目の前はしづく垂りつつ待つ冷凍車
シンゴウニ セカレテヲレバ メノマエハ シヅクタリツツ マツレイトウシャ

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06395
台風の惨を伝へて厚板のごとく流るる水とし言へり
タイフウノ サンヲツタヘテ アツイタノ ゴトクナガルル ミズトシイヘリ

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06396
過ぎにしはなべて夢とよ花咲ける萩のしげみに道をふさがる
スギニシハ ナベテユメトヨ ハナサケル ハギノシゲミニ ミチヲフサガル

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06397
葉がくれの青木つぶら実候鳥の持ち来し苞のごとく色づく
ハガクレノ アオキツブラミ コウチョウノ モチコシツトノ ゴトクイロヅク

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06398
堰を切りて流れたき日かもの言はぬことも思はぬ力を要す
セキヲキリテ ナガレタキヒカ モノイハヌ コトモオモハヌ チスラヲヨウス

『形成』(形成発行所 1976.10) 第24巻10号(通巻282号) p.128


06399
機械さへ悪意もつかと思ふまでテレファックスの像定まらず
キカイサヘ アクイモツカト オモフマデ テレファックスノ ゾウサダマラズ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06400
表情を崩すことなく聞き終へてぐらぐらとせり立ちあがるとき
ヒョウジョウヲ クズスコトナク キキオヘテ グラグラトセリ タチアガルトキ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06401
太陽に頭上を通過されしのみと読みたり無為を歎く言葉に
タイヨウニ ズジョウヲツウカ サレシノミト ヨミタリムイヲ ナゲクコトバニ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06402
両の手を合はせし闇をうち振ればほろほろと鳴る印度の鈴は
リョウノテヲ アハセシヤミヲ ウチフレバ ホロホロトナル インドノスズハ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06403
数へ切れぬ傷と思へど磨きたるガラスの向うは草萌えの丘
カゾヘキレヌ キズトオモヘド ミガキタル ガラスノムコウハ クサモエノオカ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06404
肩口より冷えつつ醒めてきららかに身に帯びゐたる鱗もあらず
カタグチヨリ ヒエツツサメテ キララカニ ミニオビヰタル ウロコモアラズ

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06405
早梅の咲くころならむ薬品の名も新しく知りて癒えゆく
ハヤウメノ サクコロナラム ヤクヒンノ ナモアタラシク シリテイエユク

『形成』(形成発行所 1977.3) 第25巻3号(通巻287号) p.122


06406
手を振りて別れ来にしが本名を告ぐることなく長くつきあふ
テヲフリテ ワカレキニシガ ホンミョウヲ ツグルコトナク ナガクツキアフ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.6


06407
待つことも仕事の一つビルの上に奇形の雲のながくとどまる
マツコトモ シゴトノヒトツ ビルノウエニ キケイノクモノ ナガクトドマル

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06408
枝先の鵙を見をれば意識して危ふきことをなすかと思ふ
エダサキノ モズヲミヲレバ イシキシテ アヤフキコトヲ ナスカトオモフ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06409
わが今の立場思へば毛皮などをなべて剥かれし寒さのごとき
ワガイマノ タチバオモヘバ ケガワナドヲ ナベテムカレシ サムサノゴトキ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06410
雪の夜のいづこともなくとざされておもたき鉄の一枚扉
ユキノヨノ イヅコトモナク トザサレテ オモタキテツノ イチマイトビラ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06411
語りあふさま座席より仰ぐとき牙のごときを人間も持つ
カタリアフ サマザセキヨリ アオグトキ キバノゴトキヲ ニンゲンモモツ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06412
会ひがたき人となりたり約束の一つをわれの果たしし日より
アヒガタキ ヒトトナリタリ ヤクソクノ ヒトツヲワレノ ハタシシヒヨリ

『形成』(形成発行所 1977.5) 第25巻5号(通巻289号) p.7


06413
蜂や蛾を怖れつつ野の家に棲むモノドラマもあと三月の間
ハチヤガヲ オソレツツノノ イエニスム モノドラマモ アトミツキノマ

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.137


06414
ゆく末の如何になるとも今見ゆるかの波だけは越えねばならず
ユクスエノ イカニナルトモ イマミユル カノナミダケハ コエネバナラズ

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.137


06415
書かれゐしは何の数字か黒板を拭き消して午後の会議を始む
カカレヰシハ ナンノスウジカ コクバンヲ フキケシテゴゴノ カイギヲハジム

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.137


06416
振動の激しき電車誰もみなひびわれて立つてゐるのかも知れず
シンドウノ ハゲシキデンシャ タレモミナ ヒビワレテタツテ ヰルノカモシレズ

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.138


06417
おもむろに心移して生きゆかむゑのころぐさを抜きつつ帰る
オモムロニ ココロウツシテ イキユカム ヱノコログサヲ ヌキツツカエル

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.138


06418
積乱雲あはく燃えつつ暮れむとす窓をしむればわが小世界
セキランウン アハクモエツツ クレムトス マドヲシムレバ ワガショウセカイ

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.138


06419
四トン車に詰めて預け来し書物あり如何にか積まむ新しき家に
ヨントンシャニ ツメテアズケコシ ショモツアリ イカニカツマム アタラシキイエニ

『形成』(形成発行所 1977.11) 第25巻11号(通巻295号) p.138


06420
遡行する時間のごとしメトロノームの音のみさせて暫くをれば
ソコウスル ジカンノゴトシ メトロノームノ オトノミサセテ シバラクヲレバ

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06421
覚えにくき人の名を言ひて海彼なる軍の蜂起をニュースは伝ふ
オボエニクキ ヒトノナヲイヒテ カイヒナル グンノホウキヲ ニュースハツタフ

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06422
子犬より長く生くるとも決まりゐず頭を撫でやりしのみに戻り来
コイヌヨリ ナガクイクルトモ キマリヰズ アタマヲナデヤリシ ノミニモドリク

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06423
山茶花の白冴ゆる日よ雪国にうまれし性を今に保ちて
サザンカノ シロサユルヒヨ ユキグニニ ウマレシサガヲ イマニタモチテ

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06424
鳥かぶとの花買ひ持てば香にたちて毒にあくがれ来し日も久し
トリカブトノ ハナカヒモテバ カニタチテ ドクニアクガレ コシヒモヒサシ

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06425
灰皿を清めて人を待つごとき思ひにゐたり夕食のあと
ハイザラヲ キヨメテヒトヲ マツゴトキ オモヒニヰタリ ユウショクノアト

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06426
くらがりに麻か何かを綯ひゐたりめざめてほめくてのひら二枚
クラガリニ アサカナニカヲ ナヒヰタリ メザメテホメク テノヒラニマイ

『形成』(形成発行所 1978.1) 第26巻1号(通巻297号) p.4


06427
思はざる恵みのごとく暖かき数日ありて風邪も癒えなむ
オモハザル メグミノゴトク アタタカキ スウジツアリテ カゼモイエナム

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06428
香を焚くほかあらぬかなたのしみの待つ如く帰り来りし家に
カウヲタク ホカアラヌカナ タノシミノ マツゴトクカエリ キタリシイエニ

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06429
父母の墓さへあらぬふるさとの馬の祭りをテレビは見しむ
チチハハノ ハカサヘアラヌ フルサトノ ウマノマツリヲ テレビハミシム

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06430
しどけなく笑へる写真幾枚もとられてゐしは暴力に似る
シドケナク ワラヘルシャシン イクマイモ トラレテヰシハ ボウリョクニニル

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06431
散らばりし意識の跡も敢へなくて昨日書きたる文字正しゆく
チラバリシ イシキノアトモ アヘナクテ キノウカキタル モジタダシユク

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06432
終りさへすればとのみに励む夜をくり返しつつ年逝かむとす
オワリサヘ スレバトノミニ ハゲムヨヲ クリカエシツツ トシユカムトス

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06433
裸馬の一頭戻りくるシーン夕焼け沙漠を背景として
ハダカウマノ イットウモドリ クルシーン ユウヤケサバクヲ ハイケイトシテ

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06434
知らざりし一面見せてゆるやかにベビーカーなど押して歩むよ
シラザリシ イチメンミセテ ユルヤカニ ベビーカーナド オシテアユムヨ

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06435
告げざれば思はぬことと等しからむ告げずに思ふ事の殖えゆく
ツゲザレバ オモハヌコトト ヒトシカラム ツゲズニオモフ コトノフエユク

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06436
外側から変ふるてだてもあるらむか同じ形に髪の整ふ
ソトガワカラ カフルテダテモ アルラムカ オナジカタチニ カミノトトノフ

『形成』(形成発行所 1978.2) 第26巻2号(通巻298号) p.13


06437
ほころびを繕ふごとく在り経たる五年と思ふ忌の日を過ぎて
ホコロビヲ ツクロフゴトク アリヘタル ゴネントオモフ キノヒヲスギテ

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06438
光線のゆゑかも知れず位置替へて仰ぐ塑像のふとゆるみたり
コウセンノ ユヱカモシレズ イチカヘテ アオグソゾウノ フトユルミタリ

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06439
聴衆の一人とあれば安けきに汗あえてバッハを弾くピアニスト
チヨウシュウノ ヒトリトアレバ ヤスケキニ アセアエテバッハヲ ヒクピアニスト

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06440
ほどく人のときめきを思ひ花びらのかたちに赤きリボンを結ぶ
ホドクヒトノ トキメキヲオモヒ ハナビラノ カタチニアカキ リボンヲムスブ

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06441
内よりの力に割れし卵かと籾殻を分けてゐる手が怯む
ウチヨリノ チカラニワレシ タマゴカト モミガラヲワケテ ヰルテガヒルム

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06442
なりふりなどかまはずならむ年齢を怖れて思ふ髪を巻きつつ
ナリフリナド カマハズナラム ネンレイヲ オソレテオモフ カミヲマキツツ

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4


06443
悪霊を払ふが如く呼ぶごとく藁を焚く火の燃えあがりたる
アクリョウヲ ハラフガゴトク ヨブゴトク ワラヲタクヒノ モエアガリタル

『形成』(形成発行所 1978.3) 第26巻3号(通巻299号) p.4