冬の保護色


06444
蘭の鉢を取り込まむとして花よりも葉よりも寒きわれかも知れず
ランノハチヲ トリコマムトシテ ハナヨリモ ハヨリモサムキ ワレカモシレズ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.24


06445
コーヒーの缶買ひ足して店を出づ冬は入り日の美しき町
コーヒーノ カンカヒタシテ ミセヲイヅ フユハイリヒノ ウツクシキマチ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.24


06446
坂の上にバスを待ちゐてゆくりなく雪積む屋根に照る月も見つ
サカノウエニ バスヲマチヰテ ユクリナク ユキツムヤネニ テルツキモミツ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.24


06447
葉先のみ青々としてすきとほり茎折れ易し冬の三つ葉は
ハサキノミ アオアオトシテ スキトホリ クキオレヤスシ フユノミツバハ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.24


06448
なほざりになすこと多く一人には広き階下を区切りて住まふ
ナホザリニ ナスコトオオク ヒトリニハ ヒロキカイカヲ クギリテスマフ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.24


06449
卵黄のかたまるまでの十五分縛らるるごとし見えぬ絆に
ランオウノ カタマルマデノ ジュウゴフン シバラルルゴトシ ミエヌキズナニ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.24


06450
石蕗の一輪のみが咲き残り昨日と同じ蜂が来てゐる
ツワブキノ イチリンノミガ サキノコリ キノウトオナジ ハチガキテヰル

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.24


06451
とめどなく流るるわれをくひとむる柵の如きはまさ目に見えず
トメドナク ナガルルワレヲ クヒトムル サクノゴトキハ マサメニミエズ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06452
まじなひに過ぎざらむともマグネットの頸飾りして仕事に向ふ
マジナヒニ スギザラムトモ マグネットノ クビカザリシテ シゴトニムカフ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06453
あがなはむ咎もあるべし現し身の膝腫るるまで立ち働きて
アガナハム トガモアルベシ ウツシミノ ヒザハルルマデ タチハタラキテ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06454
マホメットも隊商として若き日は小走りに歩く男なりしと伝ふ
マホメットモ タイショウトシテ ワカキヒハ コバシリニアルクオトコ ナリシトツタフ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06455
いけにへの像は醜く彫れりとふすさまじかりし古代を思ふ
イケニヘノ ゾウハミニクク ホレリトフ スサマジカリシ コダイヲオモフ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06456
身に響き楔打たるる夢なりき丸太なりしが跡形も無き
ミニヒビキ クサビウタルル ユメナリキ マルタナリシガ アトカタモナキ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06457
薄墨いろの雲に戻りて暮れむとしビルは生き生きと点り初めぬ
ウスズミイロノ クモニモドリテ クレムトシ ビルハイキイキト トモリハジメヌ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06458
駅前にあつまる車見てあれば流線型とふ言葉も古りぬ
エキマエニ アツマルクルマ ミテアレバ リュウセンケイトフ コトバモフリヌ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06459
踏み絵などにいつかは必ず試されむわれと思へば寒し未来も
フミエナドニ イツカハカナラズ タメサレム ワレトオモヘバ サムシミライモ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06460
亡き人のいまさばと頻り言ひ呉るる新しくなりし家を訪ひ来て
ナキヒトノ イマサバトシキリ イヒクルル アタラシクナリシ イエヲトヒキテ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06461
はじめよりかうなると決りゐしごとしひとり近づく父の齢に
ハジメヨリ カウナルトキマリ ヰシゴトシ ヒトリチカヅク チチノヨワイニ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06462
身代りに枯れゆく蘭と思ふまで蝶のかたちの花びら垂りぬ
ミガワリニ カレユクラント オモフマデ チョウノカタチノ ハナビラタリヌ

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25


06463
保護色のごとくに黒のセーターをまとひて過ぎて今日は立春
ホゴショクノ ゴトクニクロノ セーターヲ マトヒテスギテ キョウハリッシュン

『形成』(形成発行所 1978.4) 第26巻4号(通巻300号) p.25