古き樂譜


07423
懀むより祈り續け來し日々も虚し頬とがり君の歩みゐしとぞ
ニクムヨリ イノリツヅケコシ ヒビモムナシ ホオトガリキミノ アユミヰシトゾ

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.92


07424
強ひて忘れむと今は思はず君が工學の書籍も未だ積めるわが部屋
シヒテ ワスレムトイマハ オモハズキミガ コウガクノショセキモイマダ ツメルワガヘヤ

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.92


07425
あと一年は着ねばならぬコート窓に吊り防水液を吹きつけてゆく
アトイチネンハ キネバナラヌコート マドニツリ ボウスイエキヲ フキツケテユク

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.92


07426
靜かなるものにのみ心惹かるると言ふ聞けば何を君に強ひ得む
シズカナル モノニノミココロ ヒカルルト イフキケバナニヲ キミニシヒエム

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.92


07427
わが夢に來るきれぎれの像をつなぐ錯亂は深く胸にきざすや
ワガユメニ クルキレギレノ ゾウヲツナグ サクランハフカク ムネニキザスヤ

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.92


07428
さまざまに干渉されつつ結ばれゆく君等にあたたかくあらむと思ふ
サマザマニ カンショウサレツツ ムスバレユク キミラニアタタカク アラムトオモフ

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.92


07429
梗概のみを追ふ人の中に胸深く愛の推移を祕めつつ勤む
コウガイノミヲ オフヒトノナカニ ムネフカク アイノスイイヲ ヒメツツツトム

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.93


07430
カロッサに目は開かれつとある後記賜びし詩集に幾日憑かるる
カロッサニ メハヒラカレツト アルコウキ タビシシシュウニ イクヒツカルル

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.93


07431
「悲愴ソナタ」彈くべき卒業演奏も中止されにきかの空襲下
ヒソウソナタ ヒクベキソツギョウ エンソウモ チュウシサレニキ カノクウシュウカ

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.93


07432
何を至上と信じけむ身ぞ惜しまれしピアノも遂にやめて嫁げり
ナニヲシジョウト シンジケムミゾ オシマレシ ピアノモツイニ ヤメテトツゲリ

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.93


07433
母校の教師となるを拒みて歸らざりしかの若き日より遠きふるさと
ボコウノキョウシト ナルヲコバミテ カエラザリシ カノワカキヒヨリ トオキフルサト

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.93


07434
揉み手なす手代のさまも古風なる城下町の店に家づとを買ふ
モミテナス テダイノサマモ コフウナル ジョウカマチノタナニ イエヅトヲカフ

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.93


07435
疑ふは卑しきことと決めてゐてひそやかなりき不幸となりし過程も
ウタガフハ イヤシキコトト キメテヰテ ヒソヤカナリキフコウト ナリシカテイモ

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.93


07436
感情に溺るる年齡にあらぬこと夜のせせらぎを聞きつつ思ふ
カンジョウニ オボルルネンレイニ アラヌコト ヨノセセラギヲ キキツツオモフ

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.93


07437
何か含める友の饒舌と思へればはためくカーテンを括らむと立つ
ナニカフクメル トモノジョウゼツト オモヘレバ ハタメクカーテンヲ ククラムトタツ

『短歌』(角川書店 1954.11) 第1巻11号(通巻11号) p.93