カナダまで


07438
またたく星またたかぬ星さみしく立止りたくなりつつ歩む
マタタクホシ マタタカヌホシ サミシク タチドマリタク ナリツツアユム

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.124


07439
復員後は山男のやうに暮しきと何をわからせたくて言ひしぞ
フクインゴハ ヤマオトコノヤウニ クラシキト ナニヲワカラセ タクテイヒシゾ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.124


07440
大方は笑ひてすますわが笑顔ひといろと思ひまたそのまま笑ふ
オオカタハ ワラヒテスマス ワガエガオ ヒトイロトオモヒ マタソノママワラフ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.124


07441
音いろの違ふ風鈴部屋をへだててさながら二つ鳴ることのあり
ネイロノチガフ フウリンヘヤヲ ヘダテテ サナガラフタツ ナルコトノアリ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.124


07442
日傘もつ手も左手も汗ばみて連れ歩く子のなきこと寂し
ヒガサモツ テモヒダリテモ アセバミテ ツレアルクコノ ナキコトサビシ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.124


07443
急ぐこともあらじとひとりごち歩む光とほさぬ身の影踏みて
イソグコトモ アラジトヒトリ ゴチアユム ヒカリトホサヌ ミノカゲフミテ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.124


07444
放送の終りを告げて鳴るハープ夜明かして何を待たむころぞ
ホウソウノ オワリヲツゲテ ナルハープ ヨアカシテナニヲ マタムコロゾ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.124


07445
禍ひを吐かむとせしやわが夢につかの間見えて消えたる木馬
ワザハヒヲ ハカムトセシヤ ワガユメニ ツカノマミエテ キエタルモクバ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.124


07446
たちまちに君のヨットは遠ざかるカナダまで漕ぎゆくかと思ふ
タチマチニ キミノヨットハ トオザカル カナダマデコギ ユクカトオモフ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.125


07447
癒え切らぬ身かと日傘を持ち直す渡されしキャベツ手に重たくて
イエキラヌ ミカトヒガサヲ モチナオス ワタサレシキャベツ テニオモタクテ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.125


07448
オルゴールのべつに鳴らし隣室の人ももてあますらむかこの夜を
オルゴール ノベツニナラシ リンシツノ ヒトモモテアマス ラムカコノヨヲ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.125


07449
フローラを住まはしむればたのしかり日々フレームの花覗きつつ
フローラヲ スマハシムレバ タノシカリ ヒビフレームノ ハナノゾキツツ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.125


07450
晝休みの職場コーラス混聲にて齒切れよく斷音をうたふ
ヒルヤスミノ ショクバコーラス コンセイニテ ハギレヨク スタツカートヲウタフ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.125


07451
南半球へ遁れゆかむなどと笑ひゐし君を思ふ或ひは本意か知れず
ミナミハンキュウヘ ノガレユカムナドト ワラヒヰシ キミヲオモフアルヒハ ホンイカシレズ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.125


07452
夜のうしほの滿ちくる響きかの崖のどのあたりまで波は届くぞ
ヨノウシホノ ミチクルヒビキ カノガケノ ドノアタリマデ ナミハトドクゾ

『短歌』(角川書店 1956.11) 第3巻11号(通巻35号) p.125