古代の石鏃


07453
海よりの反射まばゆき部屋に覺め晦冥に戻るごとく起き出づ
ウミヨリノ ハンシャマバユキ ヘヤニサメ カイメイニモドル ゴトクオキイヅ

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.58


07454
手に重き埴輪の馬の耳ひとつ片耳の馬はいづくにをらむ
テニオモキ ハニワノウマノ ミミヒトツ カタミミノウマハ イヅクニヲラム

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.58


07455
小琴彈くおよび傷める埴輪据ゑひそかに樂をよみがへらしむ
ヲゴトヒク オヨビイタメル ハニワスヱ ヒソカニガクヲ ヨミガヘラシム

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.58


07456
瑠璃いろの勾玉を掌にまろがして裳裾吹かるる思ひにゐたり
ルリイロノ マガタマヲテニ マロガシテ モスソフカルル オモヒニヰタリ

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.58


07457
少年の秘めもつ石鏃出土地を記せるカードの文字もをさなし
ショウネンノ ヒメモツヤジリ シュツドチヲ キセルカードノ モジモヲサナシ

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.58


07458
復原を終へし繩文の坏ささげ古代の酒は充たすよしなし
フクゲンヲ オヘシジョウモンノ ツキササゲ コダイノミキハ ミタスヨシナシ

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.58


07459
石を磨りて石鏃作りゐし少年らやにはに獣逐ふ眞似したり
イシヲスリテ ヤジリツクリヰシ ショウネンラ ヤニハニケモノ オフマネシタリ

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.59


07460
笑ふ埴輪と泣く埴輪ならびよるべなし不意に窓より海の匂ひす
ワラフハニワト ナクハニワナラビ ヨルベナシ フイニマドヨリ ウミノニオヒス

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.59


07461
風出づる氣配に波の秀が燿れば蒐めし貝を措きて起ちゆく
カゼイヅル ケハイニナミノ ホガテレバ アツメシカイヲ オキテタチユク

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.59


07462
距れば性もわかたぬ土偶にてうながす聲のもはや聽かれず
ヘダタレバ セイモワカタヌ ドグウニテ ウナガスコエノ モハヤキカレズ

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.59


07463
ぬけがらを置きて翔びたつすべなきに洗ひし髪のたちまち乾く
ヌケガラヲ オキテトビタツ スベナキニ アラヒシカミノ タチマチカワク

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.59


07464
醒めてゆくこころさながらまもりつつながき葵の花どきも過ぐ
サメテユク ココロサナガラ マモリツツ ナガキアオイノ ハナドキモスグ

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.59


07465
足り易きこころみづから寂しみて沼のほとりを朝々かよふ
タリヤスキ ココロミヅカラ サビシミテ ヌマノホトリヲ アサアサカヨフ

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.59


07466
ささくれて光りゐし水凪ぎゆけばうす絹のごとき波紋を浮かす
ササクレテ ヒカリヰシミズ ナギユケバ ウスキヌノゴトキ ハモンヲウカス

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.59


07467
移り來し部屋にかかぐる月光像いくばくか變へてゆかむくらしも
ウツリコシ ヘヤニカカグル ガッコウゾウ イクバクカカヘテ ユカムクラシモ

『短歌』(角川書店 1957.8) 第4巻8号(通巻44号) p.59