夢うら


07488
風のごと貨車過ぎゆきし野のかなたくらき木立も星かげまとふ
カゼノゴト カシャスギユキシ ノノカナタ クラキコダチモ ホシカゲマトフ

『短歌』(角川書店 1958.7) 第5巻7号(通巻55号) p.65


07489
風のなき夜にて無聊に葉を垂るる棕櫚の樹も闇に置きて眠りつ
カゼノナキ ヨニテムリョウニ ハヲタルル シュロノキモヤミニ オキテネムリツ

『短歌』(角川書店 1958.7) 第5巻7号(通巻55号) p.65


07490
鐵線の花一つづつかき消えて醒めし夢如何に卜部は解かむ
テッセンノ ハナヒトツヅツ カキキエテ サメシユメイカニ ウラベハトカム

『短歌』(角川書店 1958.7) 第5巻7号(通巻55号) p.65


07491
蕩搖をこばまぬ水におとす影根もとの紅き菜を洗ひゐて
トウヨウヲ コバマヌミズニ オトスカゲ ネモトノアカキ ナヲアラヒヰテ

『短歌』(角川書店 1958.7) 第5巻7号(通巻55号) p.65


07492
夕顔の苗を植ゑつつ身の背後あざむかれゐるごときしづけさ
ユウガオノ ナエヲウヱツツ ミノハイゴ アザムカレヰル ゴトキシヅケサ

『短歌』(角川書店 1958.7) 第5巻7号(通巻55号) p.65


07493
押し寄せて來む仕事ありフェルトの造花つなぐ一日を緩衝として
オシヨセテ コムシゴトアリ フェルトノ ゾウカツナグヒトヒヲ カンショウトシテ

『短歌』(角川書店 1958.7) 第5巻7号(通巻55号) p.65


07494
洗濯機も買ひ替へて夏となる職場一人は庭に賣子木の花掃く
センタクキモ カヒカヘテナツト ナルショクバ ヒトリハニワニ エゴノハナハク

『短歌』(角川書店 1958.7) 第5巻7号(通巻55号) p.65


07495
伏字とれて戻り來し校正刷見直すと散らばれるわが五體あつまる
フセジトレテ モドリコシゲラ ミナオスト チラバレルワガ ゴタイアツマル

『短歌』(角川書店 1958.7) 第5巻7号(通巻55号) p.65


07496
蕁麻に觸れし痺れの殘りゐて脅かされむまた沼の夢に
イラクサニ フレシシビレノ ノコリヰテ オビヤカサレム マタヌマノユメニ

『短歌』(角川書店 1958.7) 第5巻7号(通巻55号) p.65


07497
いづくにかひとりでに開く窓あるや闇のなかにも花の香うごく
イヅクニカ ヒトリデニヒラク マドアルヤ ヤミノナカニモ ハナノカウゴク

『短歌』(角川書店 1958.7) 第5巻7号(通巻55号) p.65