逸れ矢


07498
朝燒けの美しき日々フレームに匂菫の咲きたまりゆく
アサヤケノ ウツクシキヒビ フレームニ ニホヒスミレノ サキタマリユク

『短歌』(角川書店 1958.9) 第5巻9号(通巻57号) p.114


07499
逸れ矢など飛びては來ずや葦の間を縫ひて汀へ歸るヨットに
ソレヤナド トビテハコズヤ アシノマヲ ヌヒテミギハヘ カエルヨットニ

『短歌』(角川書店 1958.9) 第5巻9号(通巻57号) p.114


07500
うろくづの跳ぬる音よりひそかにて隕石水に墜つる夜あらむ
ウロクヅノ ハヌルオトヨリ ヒソカニテ インセキスイニ オツルヨアラム

『短歌』(角川書店 1958.9) 第5巻9号(通巻57号) p.114


07501
描きさしの抽象畫裂きてある見ればやすらかなりし死と思ひ得ず
カキサシノ チュウショウガサキテ アルミレバ ヤスラカナリシ シトオモヒエズ

『短歌』(角川書店 1958.9) 第5巻9号(通巻57号) p.114


07502
檢閲のすみし帳簿を括りゐて區切りつかぬ思ひいつまでか持つ
ケンエツノ スミシチョウボヲ ククリヰテ クギリツカヌオモヒ イツマデカモツ

『短歌』(角川書店 1958.9) 第5巻9号(通巻57号) p.114


07503
遺作の自晝像かかるアトリエに今日はたれかゐてあかりを點す
イサクノ ジガゾウカカル アトリエニ キョウハタレカヰテ アカリヲトモス

『短歌』(角川書店 1958.9) 第5巻9号(通巻57号) p.114


07504
石室の底に眠りゐしごとし遠きしづくの音に醒めつつ
イシムロノ ソコヒニネムリ ヰシゴトシ トオキシヅクノ オトニサメツツ

『短歌』(角川書店 1958.9) 第5巻9号(通巻57号) p.114


07505
流寓の相と言はれし中指の渦紋も夏の手袋に祕む
リュウグウノ ソウトイハレシ ナカユビノ カモンモナツノ テブクロニヒム

『短歌』(角川書店 1958.9) 第5巻9号(通巻57号) p.114


07506
いつよりか「先生」とわれを呼ぶ姉妹今朝は畦道の草を刈りゐる
イツヨリカ センセイトワレヲ ヨブシマイ ケサハナハテノ クサヲカリヰル

『短歌』(角川書店 1958.9) 第5巻9号(通巻57号) p.114


07507
母のみが知りてたのしむ朝々に庭にゐるとふ小雀のつがひ
ハハノミガ シリテタノシム アサアサニ ニワニヰルトフ コガラノツガヒ

『短歌』(角川書店 1958.9) 第5巻9号(通巻57号) p.114