目次
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全短歌(歌集等)
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短歌
帰らぬ魚
噴水に
うす青き
雨のなかに
花鋏
幼な子と
眠られぬ
嗅覚の
道に会ひ
雨にけむる
キヌバリと
水槽の
むらがりて
もまれつつ
許さずと
耳鳴りの
何事か
ぬかるみを
体温を
くたくたに
顴骨の
とどまらぬ
こだはりを
硝煙の
シリユウスを
秋の夜の
ひとりでに
山茶花の
日だまりに
傘のなかに
方角を
降りしきる
少年の
あは雪を
07648
噴水に濡るる塑像をふり仰ぐするどき骨をわが身に持ちて
フンスイニ ヌルルソゾウヲ フリアオグ スルドキホネヲ ワガミニモチテ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54
07649
うす青き切符一枚幼な子のレースの胸のポケットに見ゆ
ウスアオキ キップイチマイ オサナゴノ レースノムネノ ポケットニミユ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54
07650
雨のなかに花咲ける日は短かくて合歓の葉先の早く衰ふ
アメノナカニ ハナサケルヒハ ミジカクテ ネムノハサキノ ハヤクオトロフ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54
07651
花鋏探しに出でて地にかがみそのまま草を抜き始めたり
ハナバサミ サガシニイデテ チニカガミ ソノママクサヲ ヌキハジメタリ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54
07652
幼な子と歩幅合はせて歩むさま遠く見しより憎まずなりぬ
オサナゴト ホハバアハセテ アユムサマ トオクミシヨリ ニクマズナリヌ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54
07653
眠られぬ夜々に思へばみづからの羽根抜きて紡ぐよろこびもなし
ネムラレヌ ヨヨニオモヘバ ミヅカラノ ハネヌキテツムグ ヨロコビモナシ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.54
07654
嗅覚の鋭くなりて野をゆけり霧の向ふに牛の声湧く
キュウカクノ スルドクナリテ ノヲユケリ キリノムコフニ ウシノコエワク
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55
07655
道に会ひ連れだちて帰る妹のいだく荷のなかセロリが匂ふ
ミチニアヒ ツレダチテカエル イモウトノ イダクニノナカ セロリガニオフ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55
07656
雨にけむる海見ゆる窓色褪せし紙の桜をいつまでか吊る
アメニケムル ウミミユルマド イロアセシ カミノサクラヲ イツマデカツル
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55
07657
キヌバリと呼ばるる魚のすきとほり何のけはひに身をひるがへす
キヌバリト ヨバルルウオノ スキトホリ ナンノケハヒニ ミヲヒルガヘス
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55
07658
水槽の藻のあたりより暗くなる部屋と思ひて身じろがずゐる
スイソウノ モノアタリヨリ クラクナル ヘヤトオモヒテ ミジロガズヰル
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55
07659
むらがりて岩をめぐれる魚のなか脱けて帰らぬ鮒などあるや
ムラガリテ イワヲメグレル ウオノナカ ヌケテカエラヌ フナナドアルヤ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55
07660
もまれつつ花束の流れゆくを見つ幼きこゑの川上にして
モマレツツ ハナタバノナガレ ユクヲミツ オサナキコヱノ カワカミニシテ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55
07661
許さずと決めて暫く眠りたり苦しめることも言はずに過ぎむ
ユルサズト キメテシバラク ネムリタリ クルシメルコトモ イハズニスギム
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55
07662
耳鳴りの残る寂しさわが髪に黄蜂むらがる夢醒めしあと
ミミナリノ ノコルサビシサ ワガカミニ キバチムラガル ユメサメシアト
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.55
07663
何事か否定せむとしバスのなかに次第に激しゆく指話のさま
ナニゴトカ ヒテイセムトシ バスノナカニ シダイニゲキシ ユクシワノサマ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56
07664
ぬかるみをよけし刹那につまづきて工事場のライトしたたかに浴ぶ
ヌカルミヲ ヨケシセツナニ ツマヅキテ コウジバノライト シタタカニアブ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56
07665
体温を計られて来て危ふきに水に沈めるスプーン輝く
タイオンヲ ハカラレテキテ アヤフキニ ミズニシズメル スプーンカガヤク
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56
07666
くたくたになりて目覚めぬ群集のなかに一つの顔を探しゐき
クタクタニ ナリテメザメヌ グンシュウノ ナカニヒトツノ カオヲサガシヰキ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56
07667
顴骨の高くなりたるわれの顔鏡の奥にも雨は降りつつ
ホオボネノ タカクナリタル ワレノカオ カガミノオクニモ アメハフリツツ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56
07668
とどまらぬ雲の流れを仰ぎゐて耳のうしろのさわだちやすし
トドマラヌ クモノナガレヲ アオギヰテ ミミノウシロノ サワダチヤスシ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56
07669
こだはりを持ち歩く身と気づきたりポケットの右手汗ばみてゆく
コダハリヲ モチアルクミト キヅキタリ ポケットノミギテ アセバミテユク
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56
07670
硝煙の匂ひか遠くよみがへる枯れ葉を飾るほかなき空に
ショウエンノ ニオヒカトオク ヨミガヘル カレハヲカザル ホカナキソラニ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56
07671
シリユウスを仰ぎて来しがいつまでも揺れやまぬ木々眼裏に見ゆ
シリユウスヲ アオギテコシガ イツマデモ ユレヤマヌキギ マナウラニミユ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.56
07672
秋の夜の炭火匂ひて人の名を灰文字に書くかなしみも過ぐ
アキノヨノ スミビニオヒテ ヒトノナヲ ハイモジニカク カナシミモスグ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57
07673
ひとりでに鳴るオルガンも古りたらむ風の夜は思ふ山の校舎を
ヒトリデニ ナルオルガンモ フリタラム カゼノヨハオモフ ヤマノコウシャヲ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57
07674
山茶花の咲く日となりて傷つける青のインコも癒えてゆくらし
サザンカノ サクヒトナリテ キズツケル アオノインコモ イエテユクラシ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57
07675
日だまりにつなぐ仔犬をかまひゆく卵を売りに来るをとめらも
ヒダマリニ ツナグコイヌヲ カマヒユク タマゴヲウリニ クルヲトメラモ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57
07676
傘のなかに見知らぬわれが歩みゐる雨にまじりて木の実降る道
カサノナカニ ミシラヌワレガ アユミヰル アメニマジリテ コノミフルミチ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57
07677
方角を占はれゐる椅子の上まぶた閉じてもいづこも寒し
ホウガクヲ ウラナハレヰル イスノウエ マブタトジテモ イヅコモサムシ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57
07678
降りしきる落ち葉のなかに人のゐて螺旋の階を白々と塗る
フリシキル オチバノナカニ ヒトノヰテ ラセンノカイヲ シロジロトヌル
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57
07679
少年の鼓笛隊遠く野を行けり取り残さるる打楽器の音
ショウネンノ コテキタイトオク ノヲユケリ トリノコサルル ダガッキノオト
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57
07680
あは雪を降らせてゐるはたれならむ声をひそめて人の行きかふ
アハユキヲ フラセテヰルハ タレナラム コエヲヒソメテ ヒトノユキカフ
『短歌』(角川書店 1967.1) 第14巻1号 p.57