雨の奥より


07681
散りしける欅の落ち葉いまひと夜かさねむことのありて踏みゆく
チリシケル ケヤキノオチバ イマヒトヨ カサネムコトノ アリテフミユク

『短歌』(角川書店 1969.1) 第16巻1号 p.42


07682
何ほどのことに急ぎて石階をななめにくだりゆくわれの影
ナニホドノ コトニイソギテ イシカイヲ ナナメニクダリ ユクワレノカゲ

『短歌』(角川書店 1969.1) 第16巻1号 p.42


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降りやまぬ雨の奥よりよみがへる挙手の礼などなすにあらずや
フリヤマヌ アメノオクヨリ ヨミガヘル キョシュノレイナド ナスニアラズヤ

『短歌』(角川書店 1969.1) 第16巻1号 p.42


07684
つながらぬ芝生の隙の寒き日かかき集めゆく竹の落ち葉を
ツナガラヌ シバフノスキノ サムキヒカ カキアツメユク タケノオチバヲ

『短歌』(角川書店 1969.1) 第16巻1号 p.42


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姉妹にて分ち持つ鍵緋の房をつけし一つは妹が持つ
シマイニテ ワカチモツカギ ヒノフサヲ ツケシヒトツハ イモウトガモツ

『短歌』(角川書店 1969.1) 第16巻1号 p.43


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手鏡のとらへし梢明るくて雨に触れあふ一位の実見ゆ
テカガミノ トラヘシコズエ アカルクテ アメニフレアフ イチイノミミユ

『短歌』(角川書店 1969.1) 第16巻1号 p.43


07687
少しづつ引きよせられてゐるわれか揺られ続くる夜々の眠りに
スコシヅツ ヒキヨセラレテ ヰルワレカ ユラレツヅクル ヨヨノネムリニ

『短歌』(角川書店 1969.1) 第16巻1号 p.43


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蠍を防ぐ呪文となへてわがをればかすかにたれの爪をつむ音
サソリヲフセグ ジュモントナヘテ ワガヲレバ カスカニタレノ ツメヲツムオト

『短歌』(角川書店 1969.1) 第16巻1号 p.43


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練習船の白いマストも見失ふ眼鏡はづししくるめきのなか
レンシュウセンノ シロイマストモ ミウシナフ メガネハヅシシ クルメキノナカ

『短歌』(角川書店 1969.1) 第16巻1号 p.43


07690
空深く菌糸のやうな雲が湧き知らざることを身に殖やしゆく
ソラフカク キンシノヤウナ クモガワキ シラザルコトヲ ミニフヤシユク

『短歌』(角川書店 1969.1) 第16巻1号 p.43