目次
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全短歌(歌集等)
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短歌
風のやうに
ちぎれさうに
盛りあげて
てのひらを
いつのまに
口数の
麻酔切るる
つらなめて
円柱は
帰らざる
少女らが
手首より
底深く
一息に
巻き貝の
航跡雲
朝より
人知れぬ
手に余る
曇りのまま
青胡桃
わがゑがく
日の暮れに
音立てず
似顔めく
芝庭の
07721
ちぎれさうになりつつ旗が吹かれをり厚きガラスをわれはめぐらす
チギレサウニ ナリツツハタガ フカレヲリ アツキガラスヲ ワレハメグラス
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.64
07722
盛りあげて活けゆく花に目の前をしばしなりとも塞がれてゐよ
モリアゲテ イケユクハナニ メノマエヲ シバシナリトモ フサガレテヰヨ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.64
07723
てのひらを重ぬるごとき落ち葉かとみづからの手の位置を意識す
テノヒラヲ カサヌルゴトキ オチバカト ミヅカラノテノ イチヲイシキス
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.64
07724
いつのまに小さき蜂の数増して石蕗の花のめぐり賑はふ
イツノマニ チイサキハチノ カズマシテ ツハブキノハナノ メグリニギハフ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.64
07725
口数の少なく過ぎし日と思ふ草のもみぢに道の明るむ
クチカズノ スクナクスギシ ヒトオモフ クサノモミヂニ ミチノアカルム
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.65
07726
麻酔切るる時々刻々に身の痛み超え得し神とわれは思はず
マスイキルル ジジコクコクニ ミノイタミ コエエシカミト ワレハオモハズ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.65
07727
つらなめて輝ける把手風のやうに開きていざなふドアなどあるな
ツラナメテ カガヤケルノブ カゼノヤウニ アキテイザナフ ドアナドアルナ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.65
07728
円柱は何れも太く妹をしばしばわれの視野から奪ふ
エンチュウハ イズレモフトク イモウトヲ シバシバワレノ シヤカラウバフ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.65
07729
帰らざるわれの子犬は夕焼けの真下の原を駆けゐむころか
カエラザル ワレノコイヌハ ユウヤケノ マシタノハラヲ カケヰムコロカ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.65
07730
少女らが語れる町の名の幾つ雪降れりとふ母のふるさと
ショウジョラガ カタレルマチノ ナノイクツ ユキフレリトフ ハハノフルサト
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.65
07731
手首より襟回りよりほどかれて混沌と積もるまだらの毛糸
テクビヨリ エリマワリヨリ ホドカレテ コントントツモル マダラノケイト
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.65
07732
底深く羊歯の臭ひの溜まりゐむ井戸を思ひてをれば眠りぬ
ソコフカク シダノニオヒノ タマリヰム イドヲオモヒテ ヲレバネムリヌ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.66
07733
一息にわが描く薔薇は花びらのない真黒な色のかたまり
ヒトイキニ ワガカクバラハ ハナビラノ ナイマックロナ イロノカタマリ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.66
07734
巻き貝の芯まで今朝は明るしと思へることもながく続かず
マキガイノ シンマデケサハ アカルシト オモヘルコトモ ナガクツヅカズ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.66
07735
航跡雲あとかたもなく消えてをり思ひかくまで澄む日のありや
コウセキウン アトカタモナク キエテヲリ オモヒカクマデ スムヒノアリヤ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.66
07736
朝より落ち葉しやまぬ銀杏の木事務室に見て風あるも知る
アシタヨリ オチバシヤマヌ イチョウノキ ジムシツニミテ カゼアルモシル
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.66
07737
人知れぬ賭けの如きか地に落ちし柘榴は割れてかたち崩れぬ
ヒトシレヌ カケノゴトキカ チニオチシ ザクロハワレテ カタチクズレヌ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.66
07738
手に余るまで拾ひ来し樫の実をまた一つづつ地上に返す
テニアマル マデヒロヒコシ カシノミヲ マタヒトツヅツ チジョウニカエス
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.66
07739
曇りのまま日の傾きて川下の椎の木立の遠き翳りよ
クモリノママ ヒノカタムキテ カワシモノ シイノコダチノ トオキカゲリヨ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.67
07740
青胡桃握りてをれば生涯のたった一つの獲物ならずや
アオグルミ ニギリテヲレバ ショウガイノ タッタヒトツノ エモノナラズヤ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.67
07741
わがゑがく花に似てゐむ花びらの欠けたるままに点くシャンデリア
ワガヱガク ハナニニテヰム ハナビラノ カケタルママニ ツクシャンデリア
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.67
07742
日の暮れに連れ出づる犬の在らぬこと思ひてをれば妹の言ふ
ヒノクレニ ツレイヅルイヌノ アラヌコト オモヒテヲレバ イモウトノイフ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.67
07743
音立てず漂ひゐしが尾の鰭の懈き感じのままに目ざめつ
オトタテズ タダヨヒヰシガ オノヒレノ タユキカンジノ ママニメザメツ
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.67
07744
似顔めく人間ばかり見たる日かまばたきて一つ一つと消さむ
ニガオメク ニンゲンバカリ ミタルヒカ マバタキテヒトツ ヒトツトケサム
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.67
07745
芝庭の陶のスツール秋深むゆふべゆふべの雨に打たるる
シバニワノ トウノスツール アキフカム ユフベユフベノ アメニウタルル
『短歌』(角川書店 1972.1) 第19巻1号 p.67