目次
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全短歌(歌集等)
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短歌
ガラスの皿
ゆく末は
庖丁の
充電せる
ひとところ
前歯などの
もの音を
みな同じ
人へ置く
拭きながら
一日中
紫の
07865
ゆく末は思はざらむとゐるものをほとりに水の湧くごとき日よ
ユクスエハ オモハザラムト ヰルモノヲ ホトリニミズノ ワクゴトキヒヨ
『短歌』(角川書店 1975.4) 第22巻4号 p.116
07866
庖丁の背もて鱗を削がれゐつ過ぎて体のいづこか寒し
ホウチョウノ セモテウロコヲ ソガレヰツ スギテカラダノ イヅコカサムシ
『短歌』(角川書店 1975.4) 第22巻4号 p.116
07867
充電せる馬などのゐるけはひしてまつすぐ歩みゆくほかあらず
ジュウデンセル ウマナドノヰル ケハヒシテ マツスグアユミ ユクホカアラズ
『短歌』(角川書店 1975.4) 第22巻4号 p.116
07868
ひとところ光る落ち葉は何ならむものを干しゐて目のかかづらふ
ヒトトコロ ヒカルオチバハ ナニナラム モノヲホシヰテ メノカカヅラフ
『短歌』(角川書店 1975.4) 第22巻4号 p.116
07869
前歯などの欠けゆくやうに一つ一つ錆びて落ちつぐ金魚草の花
マエバナドノ カケユクヤウニ ヒトツヒトツ サビテオチツグ ドラゴンノハナ
『短歌』(角川書店 1975.4) 第22巻4号 p.117
07870
もの音を立つることなきわが生活隣の庭は木を整ふる
モノオトヲ タツルコトナキ ワガクラシ トナリノニワハ キヲトトノフル
『短歌』(角川書店 1975.4) 第22巻4号 p.117
07871
みな同じ本のかたちと思ひゐてまどろめるらし手の冷ゆるまで
ミナオナジ ホンノカタチト オモヒヰテ マドロメルラシ テノヒユルマデ
『短歌』(角川書店 1975.4) 第22巻4号 p.117
07872
人へ置く距離曖昧に歩みつついたく小さしわが洋傘は
ヒトヘオク キョリアイマイニ アユミツツ イタクチイサシ ワガカウモリハ
『短歌』(角川書店 1975.4) 第22巻4号 p.117
07873
拭きながらガラスの皿も見失ふ思はぬ酔ひの身に残りゐて
フキナガラ ガラスノサラモ ミウシナフ オモハヌヨヒノ ミニノコリヰテ
『短歌』(角川書店 1975.4) 第22巻4号 p.117
07874
一日中真夜中のやうな地下の書庫何のはずみにここに働く
イチニチヂュウ マヨナカノヤウナ チカノショコ ナンノハズミニ ココニハタラク
『短歌』(角川書店 1975.4) 第22巻4号 p.117
07875
紫の染みて靄だつ街のさま当然ひとりの夜がまた来る
ムラサキノ ソミテモヤダツ マチノサマ トウゼンヒトリノ ヨルガマタクル
『短歌』(角川書店 1975.4) 第22巻4号 p.117