目次
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全短歌(歌集等)
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短歌
新しき塩
巻くときの
招きたる
円なさぬ
ペプラムを
立ちそそる
砂山の
美しく
通貨に如かぬ
太陽の
木によりて
果たさざる
暮れてゆく
アルミ箔の
生き残る
人に見せて
地上二メートルに
シェパードの
新聞を
羽根をのばす
肉親の
新しき
07878
巻くときの機械の力一瞬に解けて螺旋をなすカタン糸
マクトキノ キカイノチカラ イッシュンニ トケテラセンヲ ナスカタンイト
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.74
07879
招きたるわざはひにして夜を渡るしぐれの音のごとく過ぎにき
マネキタル ワザハヒニシテ ヨヲワタル シグレノオトノ ゴトクスギニキ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.74
07880
円なさぬ円を描きつぐ目の前に開きて緊まるガーベラの朱は
エンナサヌ エンヲカキツグ メノマエニ ヒラキテシマル ガーベラノシュハ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.74
07881
ペプラムを押さへつつ行き海よりの風に身すがら煽られ易し
ペプラムヲ オサヘツツユキ ウミヨリノ カゼニミスガラ ユスラレヤスシ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.75
07882
立ちそそる太き煙突仰ぎゐて声出づるごとし煙出づるは
タチソソル フトキエントツ アオギヰテ コエイヅルゴトシ ケムリイヅルハ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.75
07883
砂山のゆふべを来れば砂の上まだらなる陽の差すごとく差す
スナヤマノ ユフベヲクレバ スナノウエ マダラナルヒノ サスゴトクサス
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.75
07884
美しく見ゆる位置まで遠ざけて波打ちぎはの露頭のごとし
ウツクシク ミユルイチマデ トオザケテ ナミウチギハノ ロトウノゴトシ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.75
07885
通貨に如かぬ言語といへり夜の海は白き皮膜となりてひろがる
ツウカニシカヌ ゲンゴトイヘリ ヨノウミハ シロキヒマクト ナリテヒロガル
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.75
07886
太陽の国へ戻りてゆくための時間と思ひ地下書庫にゐる
タイヨウノ クニヘモドリテ ユクタメノ ジカントオモヒ チカショコニヰル
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.75
07887
木によりて異なる声を挙げゐると風の疎林を抜けつつ仰ぐ
キニヨリテ コトナルコエヲ アゲヰルト カゼノソリンヲ ヌケツツアオグ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.76
07888
果たさざる約を持ちあふへだたりに白のつつじも花過ぎむとす
ハタサザル ヤクヲモチアフ ヘダタリニ シロノツツジモ ハナスギムトス
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.76
07889
暮れてゆく楡の梢の鳥一羽エジプト文字のさまにしづまる
クレテユク ニレノコズエノ トリイチワ エジプトモジノ サマニシヅマル
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.76
07890
アルミ箔の用途の一つ銀いろの鶴折りてわれの声なく遊ぶ
アルミハクノ ヨウトノヒトツ ギンイロノ ツルオリテワレノ コエナクアソブ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.76
07891
生き残る者のさだめに指輪もて傷つけし爪の血を噴きやまず
イキノコル モノノサダメニ ユビワモテ キズツケシツメノ チヲフキヤマズ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.76
07892
人に見せてみづからの見ぬ顔あらむ洗ひし髪の肩になだるる
ヒトニミセテ ミヅカラノミヌ カオアラム アラヒシカミノ カタニナダルル
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.76
07893
地上二メートルに人の溢れて行き交へば上限のなき闇のみ思ふ
チジョウニメートルニ ヒトノアフレテ ユキカヘバ ジョウゲンノナキ ヤミノミオモフ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.77
07894
シェパードの一頭も飼はばたのしきかシチューは香りよく煮つまりぬ
シェパードノ イットウモカハバ タノシキカ シチューハカオリ ヨクニツマリヌ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.77
07895
新聞を畳まむとして起こしたる風に驚く夜更けのわれは
シンブンヲ タタマムトシテ オコシタル カゼニオドロク ヨフケノワレハ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.77
07896
羽根をのばすといふことのあり係累をうべなひていふ言葉と思ふ
ハネヲノバス トイフコトノアリ ケイルイヲ ウベナヒテイフ コトバトオモフ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.77
07897
肉親のみな失せたればいづこより来りしわれのいづこまで行く
ニクシンノ ミナウセタレバ イヅコヨリ キタリシワレノ イヅコマデユク
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.77
07898
新しき塩を掬ふべき手と思ふほとばしる水に打たせつつゐて
アタラシキ シオヲスクフベキ テトオモフ ホトバシルミズニ ウタセツツヰテ
『短歌』(角川書店 1976.7) 第23巻7号 p.77