転生


08070
滅多には死ねぬ思ひす尾を垂れて歩むけものを真横に見れば
メッタニハ シネヌオモヒス オヲタレテ アユムケモノヲ マヨコニミレバ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.146


08071
届きたる封書のうしろに書かれゐてやさし昔のままの町の名
トドキタル フウショノウシロニ カカレヰテ ヤサシムカシノ ママノマチノナ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.146


08072
折れさうな膝に繃帯を巻きやりし人形などの如何になりけむ
オレサウナ ヒザニホウタイヲ マキヤリシ ニンギョウナドノ イカニナリケム

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.146


08073
影踏みのごとく歩みてそれ得ぬに護送車にたれか運ばれゆきぬ
カゲフミノ ゴトクアユミテ ソレエヌニ ゴソウシャニタレカ ハコバレユキヌ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08074
いつとなく失ひてをり反動をつけて駆けだすよろこびなどは
イツトナク ウシナヒテヲリ ハンドウヲ ツケテカケダス ヨロコビナドハ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08075
着て出づるものに惑ひて行けざりし夜会のことも早く忘れむ
キテイヅル モノニマドヒテ ユケザリシ ヤカイノコトモ ハヤクワスレム

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08076
ひとりゆゑあわてずにすむと気づきたり電灯の地震にゆれゐる見つつ
ヒトリユヱ アワテズニスムト キヅキタリ デントウノナヰニ ユレヰルミツツ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08077
妹といふあいらしきもの日も夜もわがかたはらにゐたる日ありき
イモトイフ アイラシキモノ ヒモヨルモ ワガカタハラニ ヰタルヒアリキ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08078
洋傘を傾けしときガラス戸にまともに映る施主われの顔
カウモリヲ カタムケシトキ ガラスドニ マトモニウツル セシュワレノカオ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.147


08079
口もとにほくろのありしことなどの思ひ出されて忌の夜をゐる
クチモトニ ホクロノアリシ コトナドノ オモヒダサレテ キノヨルヲヰル

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08080
辛うじて大波をくぐり抜け得たるわが思ひなど人に知られず
カロウジテ オオナミヲクグリ ヌケエタル ワガオモヒナド ヒトニシラレズ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08081
山茶花の色をまじへて地に敷くは吐き散らされし言葉のごとき
サザンカノ イロヲマジヘテ チニシクハ ハキチラサレシ コトバノゴトキ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08082
菱型になりて定まるときのありプラモデルの金魚宙に垂りゐて
ヒシガタニ ナリテサダマル トキノアリ プラモデルノキンギョ チュウニタリヰテ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08083
終業にいまだ間のある午後三時濁音ばかり押し寄せてくる
シュウギョウニ イマダマノアル ゴゴサンジ ダクオンバカリ オシヨセテクル

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08084
ふるびたる思想をわれの持ちてゐむ俸給などとはこのごろ言はず
フルビタル シソウヲワレノ モチテヰム ホウキュウナドトハ コノゴロイハズ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.148


08085
引き潮に裾あらはなる岩一つ見てはならざる思ひに過ぎつ
ヒキシオニ スソアラハナル イワヒトツ ミテハナラザル オモヒニスギツ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.149


08086
落ち葉舞ふ広場のいづこをりをりに喇叭を鳴らす商人のゐる
オチバマフ ヒロバノイヅコ ヲリヲリニ ラッパヲナラス ショウニンノヰル

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻2号 p.149


08087
鏡にて監視されつつ働くと知れる少女を慰めかねつ
カガミニテ カンシサレツツ ハタラクト シレルショウジョヲ ナグサメカネツ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.149


08088
居合はせて見てしまひたる鬼の顔眠らむきはにまた動き出す
イアハセテ ミテシマヒタル オニノカオ ネムラムキハニ マタウゴキダス

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.149


08089
死者たちの寄りて住む国ありといふ必ずしもわれの信じてをらず
シシャタチノ ヨリテスムクニ アリトイフ カナラズシモワレノ シンジテヲラズ

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.149


08090
年の瀬にうからの墓を洗ひに来ぬわが生くる限りは詣でてやらむ
トシノセニ ウカラノハカヲ アラヒニキヌ ワガイクルカギリハ モウデテヤラム

『短歌』(角川書店 1979.2) 第26巻2号 p.149