目次
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全短歌(歌集等)
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短歌
雪娘
汗あえて
人数の
こはされて
雲の秀の
鉄橋を
おが屑を
収拾の
歌舞伎座の
亡き父の
防虫加工
神経の
詫びられて
素通りの
いつとなく
太々と
辻褄を
夜の更けに
ふるさとは
雪の日は
亡き人の
夏の服を
08143
汗あえて通ふといへどこの夏を繃帯一つわが巻きをらず
アセアエテ カヨフトイヘド コノナツヲ ホウタイヒトツ ワガマキヲラズ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.36
08144
人数のほどよく乗れる昼のバス目の化粧濃き少女のゐたり
ニンズウノ ホドヨクノレル ヒルノバス メノケショウコキ ショウジョノヰタリ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.36
08145
こはされてゆく店のありふるびたる招き猫などいかになりけむ
コハサレテ ユクミセノアリ フルビタル マネキネコナド イカニナリケム
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.36
08146
雲の秀のいつしか崩ればらばらの珊瑚のかたちに浮きて茜す
クモノホノ イツシカクズレ バラバラノ サンゴノカタチニ ウキテアカネス
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.37
08147
鉄橋を渡り切りたる列車見ゆかすかに昇り勾配なして
テッキョウヲ ワタリキリタル レッシャミユ カスカニノボリ コウバイナシテ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.37
08148
おが屑をかき分けて何も出でて来ぬ夢ながながと見て手をひらく
オガクズヲ カキワケテナニモ イデテコヌ ユメナガナガト ミテテヲヒラク
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.37
08149
収拾のつかぬ思ひにあり経しが今朝は木槿の白一つ咲く
シュウシュウノ ツカヌオモヒニ アリヘシガ ケサハムクゲノ シロヒトツサク
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.37
08150
歌舞伎座の舞台ならねば坂の上ただ音もなく雪降りゐたれ
カブキザノ ブタイナラネバ サカノウエ タダオトモナク ユキフリヰタレ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.37
08151
亡き父の懐中時計出でて来ぬ銀の鎖はいつしかあらず
ナキチチノ カイチュウドケイ イデテキヌ ギンノクサリハ イツシカアラズ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.37
08152
防虫加工してあるといふ布を裁つ新しきものにもなじみてゆかむ
ボウチュウカコウ シテアルトイフ ヌノヲタツ アタラシキモノニモ ナジミテユカム
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.38
08153
神経の接ぎ目接ぎ目の痛む日かパンタグラフは火を噴きて過ぐ
シンケイノ ツギメツギメノ イタムヒカ パンタグラフハ ヒヲフキテスグ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.38
08154
詫びられて済むことならずクーラーに冷やされてゆく魂までも
ワビラレテ スムコトナラズ クーラーニ ヒヤサレテユク タマシイマデモ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.38
08155
素通りのためらひもなく灯ともしていきいきとゆく回送のバス
スドオリノ タメラヒモナク ヒトモシテ イキイキトユク カイソウノバス
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.38
08156
いつとなく雨はあがれり前山の霧抜きて立つ三角帽子
イツトナク アメハアガレリ マエヤマノ キリヌキテタツ サンカクボウシ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.38
08157
太々と何のグラフか上昇しやまぬ朱線を見て夢のなか
フトブトト ナンノグラフカ ジョウショウシ ヤマヌシュセンヲ ミテユメノナカ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.38
08158
辻褄をあはせてすむとも思はねどくらがりに降る音のみの雨
ツジツマヲ アハセテスムトモ オモハネド クラガニフル オトノミノアメ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.39
08159
夜の更けにものを食みゐて兵量の尽きなば果てむ戦の如し
ヨノフケニ モノヲハミヰテ ヒョウリョウノ ツキナバハテム イクサノゴトシ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.39
08160
ふるさとは城のある町ゆくりなくジョギングコースとして映されぬ
フルサトハ シロノアルマチ ユクリナク ジョギングコース トシテウツサレヌ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.39
08161
雪の日はまろびて遊び頬赤き雪娘なりし遠き昔よ
ユキノヒハ マロビテアソビ ホオアカキ ユキムスメナリシ トオキムカシヨ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.39
08162
亡き人の真珠の耳輪手にのせてかなしみはふとわれを清くす
ナキヒトノ シンジュノミミワ テニノセテ カナシミハフト ワレヲキヨクス
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.39
08163
夏の服を仕舞はむとしてうすものを透かしくる如きかなしみに会ふ
ナツノフクヲ シマハムトシテ ウスモノヲ カスシクルゴトキ カナシミニアフ
『短歌』(角川書店 1979.11) 第26巻11号 p.39