目次
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全短歌(歌集等)
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短歌
花の香ならず
純白の
逝きしより
つながれし
出でてゆく
なにげなく
力ある
食事して
その母に
兵たりし
たのしみの
用一つ
摑みたる
思ひ来し
瀬戸ものの
ひろがりて
イタリアの
若くして
縫ひものを
娘たちを
手探りの
08226
純白の大きはちすの花ありきさはれば紙の音をたてにき
ジュンパクノ オオキハチスノ ハナアリキ サハレバカミノ オトヲタテニキ
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.18
08227
逝きしより八年を経ておもかげもいつしか写真の顔に定まる
ユキシヨリ ハチネンヲヘテ オモカゲモ イツシカシャシンノ カオニサダマル
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.18
08228
つながれしままに眠れりはじめより犬のかたちに生れしのみに
ツナガレシ ママニネムレリ ハジメヨリ イヌノカタチニ ウマレシノミニ
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.19
08229
出でてゆく気配のせしが鉄のドア思はぬ大き音してしまる
イデテユク ケハイノセシガ テツノドア オモハヌオオキ オトシテシマル
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.19
08230
なにげなく読みて畳みし広告の牛のまだらの目に残りたり
ナニゲナク ヨミテタタミシ コウコクノ ウシノマダラノ メニノコリタリ
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.19
08231
力ある二本の指に掏るといふ二本の指も人を狂はす
チカラアル ニホンノユビニ スルトイフ ニホンノユビモ ヒトヲクルハス
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.19
08232
食事して夜更けの駅に別れしが調停などのいかになりけむ
ショクジシテ ヨフケノエキニ ワカレシガ チョウテイナドノ イカニナリケム
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.19
08233
その母に返して胸のさびしけれあたたかかりしみどり児の嵩
ソノハハニ カエシテムネノ サビシケレ アタタカカリシ ミドリゴノカサ
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.19
08234
兵たりし昔を言ひて飲食を急ぐ習ひをみづから笑ふ
ヘイタリシ ムカシヲイヒテ インショクヲ イソグナラヒヲ ミヅカラワラフ
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.20
08235
たのしみの少なきわれに仮縫ひを終へしコートの今日か届かむ
タノシミノ スクナキワレニ カリヌヒヲ オヘシコートノ キョウカトドカム
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.20
08236
用一つ思い出しつつ横たへてある木の梯子見て通りたり
ヨウヒトツ オモイダシツツ ヨコタヘテ アルキノハシゴ ミテトオリタリ
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.20
08237
摑みたる手にやはらかにくびれたる何なりしかと目ざめて思ふ
ツカミタル テニヤハラカニ クビレタル ナニナリシカト メザメテオモフ
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.20
08238
思ひ来しことのくさぐさ相会ひて言葉となして何ぞはかなき
オモヒコシ コトノクサグサ アイアヒテ コトバトナシテ ナンゾハカナキ
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.20
08239
瀬戸ものの触れあふ音のしてゐしが唐突の死をわれは願へる
セトモノノ フレアフオトノ シテヰシガ トウトツノシヲ ワレハネガヘル
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.20
08240
ひろがりてたゆたひてゐるものならめ意識するとき心は固体
ヒロガリテ タユタヒテヰル モノナラメ イシキスルトキ ココロハコタイ
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.21
08241
イタリアの厚地の絹も古びしに着れば落ちつくブラウスのあり
イタリアノ アツジノキヌモ フルビシニ キレバオチツク ブラウスノアリ
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.21
08242
若くして逝きにしことも幸ひか時雨の寺をまからむとする
ワカクシテ ユキニシコトモ サイワヒカ シグレノテラヲ マカラムトスル
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.21
08243
縫ひものを仕舞はむとゐて夜半に聞く秋の雷などさびしきものを
ヌヒモノヲ シマハムトヰテ ヨワニキク アキノライナド サビシキモノヲ
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.21
08244
娘たちを嫁がすといふかなしみも知らず終らむわれとし気づく
ムスメタチヲ トツガストイフ カナシミモ シラズオワラム ワレトシキヅク
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.21
08245
手探りの如きひと日を終へて来て花の香ならず指に残れる
テサグリノ ゴトキヒトヒヲ オヘテキテ ハナノカナラズ ユビニノコレル
『短歌』(角川書店 1980.12) 第27巻12号 p.21