目次
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全短歌(歌集等)
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短歌
雨域
測量の
紫陽花の
帰化したる
仏像の
いつの日の
雨の日の
池水の
石ぶみの
はみ出でし
つつがなき
終点まで
西日本を
冷蔵庫の
父母の名も
亡き父の
ときのまに
職やめて
しばらくを
北国の
安物の
錆びいろの
死のあとに
とりたてて
カレンダーに
さすらひの
雨季の来る
食事のあと
夜の部屋の
教へ子と
賑やかに
滑り台
語るべき
08278
測量の人らの去りし野の上は泡立草も未だ芽ぶかず
ソクリョウノ ヒトラノサリシ ノノウエハ アワダチソウモ イマダメブカズ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.26
08279
紫陽花のしげみのかなた賑はひてプロゴルファーの今日は来てゐる
アジサイノ シゲミノカナタ ニギハヒテ プロゴルファーノ キョウハキテヰル
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.26
08280
帰化したる人らの彫りしみ仏と伝へて仰ぐおとがひ豊か
キカシタル ヒトラノホリシ ミホトケト ツタヘテアオグ オトガヒユタカ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.27
08281
仏像の耳は重しと仰ぎゐて次第にわれの耳の垂りくる
ブツゾウノ ミミハオモシト アオギヰテ シダイニワレノ ミミノタリクル
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.27
08282
いつの日の母の言葉かみ仏は偏平足を持ちいますとふ
イツノヒノ ハハノコトバカ ミホトケハ ヘンペイソクヲ モチイマストフ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.27
08283
雨の日の卯の花を見て通りしが今日は茶室に人のけはひす
アメノヒノ ウノハナヲミテ トオリシガ キョウハチャシツニ ヒトノケハヒス
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.27
08284
池水の底の闇よりのぼりくる幽鬼のごとし真鯉の顔は
イケミズノ ソコノヤミヨリ ノボノクル ユウキノゴトシ マゴイノカオハ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.27
08285
石ぶみの根元の草にあまたゐて何の蝶とも知れずたゆたふ
イシブミノ ネモトノクサニ アマタヰテ ナンノチョウトモ シレズタユタフ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.27
08286
はみ出でし枝の先なる蔓薔薇のひときは赤し日に照らされて
ハミイデシ エダノサキナル ツルバラノ ヒトキハアカシ ヒニテラサレテ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.28
08287
つつがなき明日ある如しほどけゆく航跡雲もかすか茜す
ツツガナキ アスアルゴトシ ホドケユク コウセキウンモ カスカアカネス
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.28
08288
終点まで行きてみむ日もなくて乗るバスと思へり降りし夜道に
シュウテンマデ ユキテミムヒモ ナクテノル バストオモヘリ オリシヨミチニ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.28
08289
西日本を黄砂はひろく覆ふとぞこもりゐて空を見ざる一日に
ニシニホンヲ コウサハヒロク オオフトゾ コモリヰテソラヲ ミザルヒトヒニ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.28
08290
冷蔵庫のなか明るくて生みたてを賜びし真白の鶏卵並ぶ
レイゾウコノ ナカアカルクテ ウミタテヲ タマビシマシロノ ケイランナラブ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.28
08291
父母の名も妹の名も消されたる戸籍謄本見つつすべなし
フボノナモ イモウトノナモ ケサレタル コセキトウホン ミツツスベナシ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.28
08292
亡き父の姓をそのまま姓として書類に古りし印鑑を押す
ナハチチノ セイヲソノママ セイトシテ ショルイニフリシ インカンヲオス
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.29
08293
ときのまに日ざし洩れ来て喪の花の銀はまぶしく光を返す
トキノマニ ヒザシモレキテ モノハナノ ギンハマブシク ヒカリヲカエス
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.29
08294
職やめて久しきものを取引先の電話など今に記憶すと言ふ
ショクヤメテ ヒサシキモノヲ トリヒキサキノ デンワナドイマニ キオクストイフ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.29
08295
しばらくをかけなづむ鍵の音のして隣りの家のたれか出でゆく
シバラクヲ カケナヅムカギノ オトノシテ トナリノイエノ タレカイデユク
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.29
08296
北国の桜の花も終はるとふ紫陽花に降る雨やはらかし
キタグニノ サクラノハナモ オハルトフ アジサイニフル アメヤハラカシ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.29
08297
安物の宝石あまた持ち古りぬこころすさめる日々に買ひにき
ヤスモノノ ホウセキアマタ モチフリヌ ココロスサメル ヒビニカヒニキ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.29
08298
錆びいろの葉を持つアートフラワーの枯るることなき平安もよし
サビイロノ ハヲモツアート フラワーノ カルルコトナキ ヘイアンモヨシ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.30
08299
死のあとに残されむもの度の違ふ眼鏡の幾つ思ふことあり
シノアトニ ノコサレムモノ ドノチガフ メガネノイクツ オモフコトアリ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.30
08300
とりたてて思ふならねど静かにてかなしきときに歌の生まるる
トリタテテ オモフナラネド シズカニテ カナシキトキニ ウタノウマルル
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.30
08301
カレンダーにしるし置きしが今朝見れば唐招提寺の祭りも過ぎぬ
カレンダーニ シルシオキシガ ケサミレバ トウショウダイジノ マツリモスギヌ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.30
08302
さすらひの子猫を飼ふと決めしよりすなほになれる少女と伝ふ
サスラヒノ コネコヲカフト キメシヨリ スナホニナレル ショウジョトツタフ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.30
08303
雨季の来る前には再び痛まむとわが持つ傷を人の気づかふ
ウキノクル マエニハフタタビ イタマムト ワガモツキズヲ ヒトノキヅカフ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.30
08304
食事のあとゆるぶ体のうとましくながく坐れり何なすとなく
ショクジノアト ユルブカラダノ ウトマシク ナガクスワレリ ナニナストナク
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.31
08305
夜の部屋の四隅寒しと見回してたちまち雨の音にかこまる
ヨノヘヤノ ヨスミサムシト ミマワシテ タチマチアメノ オトニカコマル
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.31
08306
教へ子といへども不惑をとうに過ぎ一人は中国人の妻となりゐし
オシヘゴト イヘドモフワクヲ トウニスギ ヒトリハチュウゴクジンノ ツマトナリヰシ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.31
08307
賑やかにゐたりし子らも帰りゆきかすかに濁る絨緞のいろ
ニギヤカニ ヰタリシコラモ カエリユキ カスカニニゴル ジュウタンノイロ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.31
08308
滑り台斜めにかかりゐたるのみ小公園に降る雨寒し
スベリダイ ナナメニカカリ ヰタルノミ ショウコウエンニ フルアメサムシ
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.31
08309
語るべき人もあらねばセーターを重ねて梅雨の夜を起きゐる
カタルベキ ヒトモアラネバ セーターヲ カサネテツユノ ヨルヲオキヰル
『短歌』(角川書店 1982.8) 第29巻8号 p.31