絵蠟燭


08310
白百合の絵にまだ青きつぼみ見ゆつぼみも咲きて花終へにけむ
シラユリノ エニマダアオキ ツボミミユ ツボミモサキテ ハナオヘニケム

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.20


08311
靴音を待ちて更かしし夜々ありき待ち飽かざりき若かりしかば
クツオトヲ マチテフカシシ ヨヨアリキ マチアカザリキ ワカカリシカバ

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.20


08312
ひたすらに釘打つさまの見えながらかかはりのなきことを思へる
ヒタスラニ クギウツサマノ ミエナガラ カカハリノナキ コトヲオモヘル

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.21


08313
子らのため故郷を捨てし父母ならむ磐梯の山を見つつ思へば
コラノタメ コキョウヲステシ フボナラム バンダイノヤマヲ ミツツオモヘバ

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.21


08314
梵鐘はただにしづもりゐたりしが中世の冬のごとき日ざしよ
ボンショウハ タダニシヅモリ ヰタリシガ チュウセイノフユノ ゴトキヒザシヨ

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.21


08315
めくるめく速さに回る風車四つの角のたちまち見えず
メクルメク ハヤサニマワル カザグルマ ヨッツノツノノ タチマチミエズ

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.21


08316
家づとに絵蠟燭買ひバス待てば何かかなしみを持ちたるごとし
イエヅトニ エロウソクカヒ バスマテバ ナニカカナシミヲ モチタルゴトシ

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.22


08317
染められて織られてつやを持つタフタかすかに繭の匂ひ残れる
ソメラレテ オラレテツヤヲ モツタフタ カスカニマユノ ニオヒノコレル

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.22


08318
曼珠沙華にふちどられたる田なりしが田も稗抜きてゐし祖父もなし
マンジュシャゲニ フチドラレタル タナリシガ タモヒエヌキテ ヰシソフモナシ

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.22


08319
十年にどのあたりまで往きにけむ数珠の水晶は曇り帯び来ぬ
ジュウネンニ ドノアタリマデ ユキニケム ジュズノスイショウハ クモリオビキヌ

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.22


08320
死のときはたれもひとりよまひまひは一粒のまま日の暮れむとす
シノトキハ タレモヒトリヨ マヒマヒハ ヒトツブノママ ヒノクレムトス

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.23


08321
安否さへ問ふよしもなき人ながら苦しみのみを負ふにもあらぬ
アンピサヘ トフヨシモナキ ヒトナガラ クルシミノミヲ オフニモアラヌ

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.23


08322
金輪際かかる願ひは告げ得ぬに思ひゐて血の濃くなるごとし
コンリンザイ カカルネガヒハ ツゲエヌニ オモヒヰテチノ コクナルゴトシ

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.23


08323
何を待ちてゐるわれならむ地球儀はひと回りしてまた海の青
ナニヲマチテ ヰルワレナラム チキュウギハ ヒトマワリシテ マタウミノアオ

『短歌』(角川書店 1983.2) 第30巻2号 p.23