象牙の花


08324
ひとりごとにわれみづからを励まして夜にわたらむ会に出でゆく
ヒトリゴトニ ワレミヅカラヲ ハゲマシテ ヨルニワタラム カイニイデユク

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.24


08325
二階より見おろしをれば降りやまぬ雨と噴水の音とまぎらはし
ニカイヨリ ミオロシヲレバ フリヤマヌ アメトフンスイノ オトトマギラハシ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.24


08326
霊柩車を先立ててゆくバスのなか不意に時刻を問ひし人あり
レイキュウシャヲ サキダテテユク バスノナカ フイニジコクヲ トヒシヒトアリ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.25


08327
牝鶏の数羽の声の庭にしてこころやさしくなりゐるごとし
メンドリノ スウワノコエノ ニワニシテ ココロヤサシク ナリヰルゴトシ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.25


08328
さまざまに範囲ひろげて言ふ聞けばやましきことを持つはすさまじ
サマザマニ ハンイヒロゲテ イフキケバ ヤマシキコトヲ モツハスサマジ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.25


08329
拇印押して朱の色の濃きに驚きぬ被害届といへり書類に
ボインオシテ シュノイロノコキニ オドロキヌ ヒガイトドケト イヘリショルイニ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.25


08330
能登びとの声を電話に聞ける夜の夢にさわだつ冬のうしほは
ノトビトノ コエヲデンワニ キケルヨノ ユメニサワダツ フユノウシホハ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.26


08331
山国に育ちて海を知らざりき少女のころよりあくがれ易し
ヤマグニニ ソダチテウミヲ シラザリキ ショウジョノコロヨリ アクガレヤスシ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.26


08332
銘柄は甲斐路と言へりあたたかき籾殻をほぐして葡萄を掬ふ
メイガラハ カイジトイヘリ アタタカキ モミガラヲホグシテ ブドウヲスクフ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.26


08333
公職を去りて一年使はなくなれる名刺の箱のまま出づ
コウショクヲ サリテイチネン ツカハナク ナレルメイシノ ハコノママイヅ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.26


08334
象牙の花を襟に飾りていまししが喪の家の昼はしづかなりけり
ゾウゲノハナヲ エリニカザリテ イマシシガ モノイエノヒルハ シヅカナリケリ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.27


08335
ひろがりてくねれる枝を生けあぐみ黄菊幾粒こぼしてしまふ
ヒロガリテ クネレルエダヲ イケアグミ キギクイクツブ コボシテシマフ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.27


08336
ストーブを消して寝ねむに金印の出でたる島の名も忘れゐる
ストーブヲ ケシテイネムニ キンインノ イデタルシマノ ナモワスレヰル

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.27


08337
戦争のくり返さるる詮なけれビショップの環など立つ日のあるな
センソウノ クリカエサルル センナケレ ビショップノワナド タツヒノアルナ

『短歌』(角川書店 1984.2) 第31巻2号 p.27