横顔


08352
覚めやらぬままに聞きゐるちび犬を連れ出づるらしき少年のこゑ
サメヤラヌ ママニキキヰル チビイヌヲ ツレイヅルラシキ ショウネンノコヱ

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.20


08353
塗り終へて和紙に抑ふる口紅に花の匂ひのしてやさしけれ
ヌリオヘテ ワシニオサフル クチベニニ ハナノニオヒノ シテヤサシケレ

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.20


08354
立冬と聞きて出づれば真向ひのステンドグラス黄を輝かす
リットウト キキテイヅレバ マムカヒノ ステンドグラス キヲカガヤカス

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.21


08355
もてあそぶといふさびしさに拾ひたる椎の実をしばしもろ手にかこふ
モテアソブ トイフサビシサニ ヒロヒタル シイノミヲシバシ モロテニカコフ

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.21


08356
語らひつつ行ける少女ら歩道橋をのぼらむとして散りぢりになる
カタラヒツツ ユケルショウジョラ ホドウキョウヲ ノボラムトシテ チリヂリニナル

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.21


08357
似顔絵をゑがかるることもあらざれば安しと児らの画展見てゆく
ニガオエヲ ヱガカルルコトモ アラザレバ ヤスシトコラノ ガテンミテユク

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.21


08358
賑はひのなか抜けくれば一室に無人のベッドが並びゐにけり
ニギハヒノ ナカヌケクレバ イッシツニ ムジンノベッドガ ナラビヰニケリ

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.22


08359
右半身左半身少しづつずれて近づく鏡のわれに
ミギハンシン ヒダリハンシン スコシヅツ ズレテチカヅク カガミノワレニ

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.22


08360
煙草の火移さむとして横顔と横顔が無限に近づきゆけり
タバコノヒ ウツサムトシテ ヨコガオト ヨコガオガムゲンニ チカヅキユケリ

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.22


08361
暮れ残る真上の空に浮く雲のしろじろと南米の地図のかたちす
クレノコル マウエノソラニ ウククモノ シロジロトナンベイノ チズノカタチス

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.22


08362
日ぐれまでかしましかりし箱馬車の玩具もいつか児らは使はず
ヒグレマデ カシマシカリシ ハコバシャノ ガングモイツカ コラハツカハズ

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.23


08363
幼な子の戻れるけはい間もあらず泣き声あがる隣の家は
オサナゴノ モドレルケハイ マモアラズ ナキゴエアガル トナリノイエハ

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.23


08364
風の夜を怖れつつなほをりをりにさまざまに燃やす火といふものを
カゼノヨヲ オソレツツナホ ヲリヲリニ サマザマニモヤス ヒトイフモノヲ

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.23


08365
眠らむとして目に来るはいつ見たる前方後円墳の俯瞰図
ネムラムト シテメニクルハ イツミタル ゼンポウコウエン フンノフカンズ

『短歌』(角川書店 1986.2) 第33巻2号 p.23