運命論者


08366
透明のグラスにそそぐ桜湯の桜はほのと蕊立てにけり
トウメイノ グラスニソソグ サクラユノ サクラハホノト シベタテニケリ

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.16


08367
落ち葉のみ吹かれてゆきて山茶花のうすくれなゐは黒土のうへ
オチバノミ フカレテユキテ サザンカノ ウスクレナヰハ クロツチノウヘ

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.16


08368
亡きあとに得し身軽さもゆふぐれは今に寂しと人の言ふなり
ナキアトニ エシミガルサモ ユフグレハ イマニサビシト ヒトノイフナリ

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.16


08369
対岸のくれぐれのなか穂すすきは白くかたまりちぎれ雲なす
タイガンノ クレグレノナカ ホススキハ シロクカタマリ チギレグモナス

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.16


08370
ひとつ飛びの溝と思ひて向きゐしが夢のなかにも膝を庇ひき
ヒトツトビノ ミゾトオモヒテ ムキヰシガ ユメノナカニモ ヒザヲカバヒキ

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.16


08371
届きたる名簿をしばし繰りをれば次第に運命論者のごとし
トドキタル メイボヲシバシ クリヲレバ シダイニウンメイ ロンシャノゴトシ

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.17


08372
まばらなる桜のもみぢ吹かれゐて太々と黒き幹ありにけり
マバラナル サクラノモミヂ フカレヰテ フトブトトクロキ ミキアリニケリ

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.17


08373
油断とは踵を上げて背伸びして何をかのぞき見てゐる背中
ユダントハ カカトヲアゲテ セノビシテ ナニヲカノゾキ ミテヰルセナカ

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.17


08374
一過性の病と言へり音荒く道をよぎりて電車が行けり
イッカセイノ ヤマイトイヘリ オトアラク ミチヲヨギリテ デンシャガユケリ

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.17


08375
素手に行く不安に堪へずをんならは袋のたぐひ持つにかあらむ
スデニユク フアンニタヘズ ヲンナラハ フクロノタグヒ モツニカアラム

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.17


08376
自転車のライトは闇を遠ざかり風に吹かるる如く揺れゆく
ジテンシャノ ライトハヤミヲ トオザカリ カゼニフカルル ゴトクユレユク

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.17


08377
月の夜は尾のなきものも影曳くと何を恐れて母の言ひけむ
ツキノヨハ オノナキモノモ カゲヒクト ナニヲオソレテ ハハノイヒケム

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.17


08378
いくたびの霜にやはらぐ柿落ち葉踏みても音の折れずなりたり
イクタビノ シモニヤハラグ カキオチバ フミテモオトノ オレズナリタリ

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.17


08379
ゆく末をまた見失ふごとき日に軒を鳴らして狐雨降る
ユクスエヲ マタミウシナフ ゴトキヒニ ノキヲナラシテ キツネアメフル

『短歌』(角川書店 1987.2) 第34巻2号 p.17