多年草


08394
多年草の黄菊うらうら照れれども来年の秋はいかになりゐむ
タネンソウノ キギクウラウラ テレレドモ ライネンノアキハ イカニナリヰム

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.20


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じつとして沈める緋鯉堪へ切れず動くと如く身をよぢりたり
ジツトシテ シズメルヒゴイ タヘキレズ ウゴクトゴトク ミヲヨヂリタリ

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.20


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手に負へぬ荷物となりぬ自然薯の異形を入れし紙の袋は
テニオヘヌ ニモツトナリヌ ジネンジョノ イギョウヲイレシ カミノフクロハ

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.21


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おのづから意識遠のき豆電球のごとくになりてしまふときあり
オノヅカラ イシキトオノキ マメデンキュウノ ゴトクニナリテ シマフトキアリ

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.21


08398
出でて行く農園があるにあらねども百米までといふコードレス電話
イデテユク ノウエンガアルニ アラネドモ ヒャクメートルマデトイフ コードレスデンワ

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.21


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カウンターに残りてゐたる風船の空いろ二本も貰はれゆけり
カウンターニ ノコリテヰタル フウセンノ ソライロニホンモ モラハレユケリ

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.21


08400
時ならず別離の言葉叫びたる籠の鸚鵡はみじろがずゐる
トキナラズ ベツリノコトバ サケビタル カゴノオウムハ ミジロガズヰル

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.22


08401
見しことを見しと告げずにおくことも三人相持つ罪のごとしも
ミシコトヲ ミシトツゲズニ オクコトモ ミタリアイモツ ツミノゴトシモ

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.22


08402
騒立てる日々なりにしが川岸の学校園は枯れ草の藪
サワダテル ヒビナリニシガ カワギシノ ガッコウエンハ カレクサノヤブ

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.22


08403
塩分を除かば無限に水はありと幼くて何を思ひ詰めけむ
エンブンヲ ノゾカバムゲンニ ミズハアリト オサナクテナニヲ オモヒツメケム

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.22


08404
おとなびてやさしかりしよメリンスより銘仙に移りし元禄の袖
オトナビテ ヤサシカリシヨ メリンスヨリ メイセンニウツリシ ゲンロクノソデ

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.23


08405
今使ふ錐にあらねど目の前に見当たらざればおちつかずなる
イマツカフ キリニアラネド メノマエニ ミアタラザレバ オチツカズナル

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.23


08406
ものおとにさときも病のゆゑといふいずこ踏切の音する夜あり
モノオトニ サトキモヤマイノ ユヱトイフ イズコフミキリノ オトスルヨアリ

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.23


08407
身にかなふ労働量を限られてとりとめもなく年越さむとす
ミニカナフ ロウドウリョウヲ カギラレテ トリトメモナク トシコサムトス

『短歌』(角川書店 1989.2) 第36巻2号 p.23