杉匂ふ


08536
裁ち屑を掃きよせをればひとかたに集まるごとしわれの思ひも
タチクズヲ ハキヨセヲレバ ヒトカタニ アツマルゴトシ ワレノオモヒモ

『短歌現代』(短歌新聞社 1981.5) 第5巻5号 p.20


08537
夢に来てつくづくとものを言ひゆけり病の篤き人かと思ふ
ユメニキテ ツクヅクトモノヲ イヒユケリ ヤマイノアツキ ヒトカトオモフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1981.5) 第5巻5号 p.20


08538
働きて狭く生きつつ死に顔に知れるのみなるおもかげ幾つ
ハタラキテ セマクイキツツ シニガオニ シレルノミナル オモカゲイクツ

『短歌現代』(短歌新聞社 1981.5) 第5巻5号 p.20


08539
珊瑚樹の垣の内より声のして幼き者ら何を争ふ
サンゴジュノ カキノウチヨリ コエノシテ オサナキモノラ ナニヲアラソフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1981.5) 第5巻5号 p.20


08540
見舞ひたるこころも知らず戦場に散ればよかりしなどと言ふなり
ミマヒタル ココロモシラズ センジョウニ チレバヨカリシ ナドトイフナリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1981.5) 第5巻5号 p.21


08541
日のさして明るき刈り田一対の電線ありて麓をめぐる
ヒノサシテ アカルキカリタ イッイツノ デンセンアリテ フモトヲメグル

『短歌現代』(短歌新聞社 1981.5) 第5巻5号 p.21


08542
杉山の芽ぶきのときを立ちこめて雄のけものの匂ひと思ふ
スギヤマノ メブキノトキヲ タチコメテ オスノケモノノ ニオヒトオモフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1981.5) 第5巻5号 p.21


08543
暮れあひの空より雪は舞ひ出でて背後を見せぬビル立ち並ぶ
クレアヒノ ソラヨリユキハ マヒイデテ ハイゴヲミセヌ ビルタチナラブ

『短歌現代』(短歌新聞社 1981.5) 第5巻5号 p.21


08544
雪の日の静かなる街つぎつぎに畳まれてゆく傘を見てゐし
ユキノヒノ シズカナルマチ ツギツギニ タタマレテユク カサヲミテヰシ

『短歌現代』(短歌新聞社 1981.5) 第5巻5号 p.21


08545
亡き人をふやしつつ来ていつとなくたのまずなりぬ後生のことも
ナキヒトヲ フヤシツツキテ イツトナク タノマズナリヌ ゴシヤウノコトモ

『短歌現代』(短歌新聞社 1981.5) 第5巻5号 p.21