をりをりきざす


08579
くれがたに群れ飛ぶ見ればグレナダへ僧になりにゆく鴉ならずや
クレガタニ ムレトブミレバ グレナダヘ ソウニナリニユク カラスナラズヤ

『短歌現代』(短歌新聞社 1984.1) 第8巻1号 p.50


08580
すれすれにバスをよけたる草の道毒の茸もこのごろは見ず
スレスレニ バスヲヨケタル クサノミチ ドクノキノコモ コノゴロハミズ

『短歌現代』(短歌新聞社 1984.1) 第8巻1号 p.50


08581
色づける羽状複葉何の木と仰ぎゐてふと音を失ふ
イロヅケル ハジョウフクヨウ ナンノキト アオギヰテフト オトヲウシナフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1984.1) 第8巻1号 p.50


08582
五百枚の原稿用紙買ひ持ちていまだ紙なる重さを運ぶ
ゴヒャクマイノ ゲンコウヨウシ カヒモチテ イマダカミナル オモサヲハコブ

『短歌現代』(短歌新聞社 1984.1) 第8巻1号 p.50


08583
思はれてゐるやうにしか振舞へずなまの感情はをりをりきざす
オモハレテ ヰルヤウニシカ フルマヘズ ナマノカンジョウハ ヲリヲリキザス

『短歌現代』(短歌新聞社 1984.1) 第8巻1号 p.51


08584
うるし塗りの細き筆などありにしが身のほとりよりさまざまに失す
ウルシヌリノ ホソキフデナド アリニシガ ミノホトリヨリ サマザマニウス

『短歌現代』(短歌新聞社 1984.1) 第8巻1号 p.51


08585
蓋をとれば裏光りたり蓋をとるといふことを日に幾たびもする
フタヲトレバ ウラビカリタリ フタヲトル トイフコトヲヒニ イクタビモスル

『短歌現代』(短歌新聞社 1984.1) 第8巻1号 p.51


08586
螢ぶくろの花ほうと吹き生けむとす若かりし母のなしし如くに
ホタルブクロノ ハナホウトフキ イケムトス ワカカリシハハノ ナシシゴトクニ

『短歌現代』(短歌新聞社 1984.1) 第8巻1号 p.51


08587
灯の暗き寄宿舎の冬伏せ字解くをたのしみとしたる少女期ありき
ヒノクラキ キシュクシャノフユ フセジトクヲ タノシミトシタル ショウジョキアリキ

『短歌現代』(短歌新聞社 1984.1) 第8巻1号 p.51


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学びてよりはや五十年はたちながら農本主義といふを忘れず
マナビテヨリ ハヤゴジュウネンハ タチナガラ ノウホンシュギト イフヲワスレズ

『短歌現代』(短歌新聞社 1984.1) 第8巻1号 p.51