雨の音する


08711
竹似草刈られて広き川堤胸のあばらも透くごとき日よ
タケニグサ カラレテヒロキ カワヅツミ ムネノアバラモ スクゴトキヒヨ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.105


08712
廃線のレールのほとり散りそむるあり咲き出づるありて白梅
ハイセンノ レールノホトリ チリソムル アリサキイヅル アリテシラウメ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.105


08713
散らばれる親馬仔馬子供らのゑがく仔馬はいたく小さし
チラバレル オヤウマコウマ コドモラノ ヱガクコウマハ イタクチイサシ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.105


08714
発掘のあとをそのまま霜枯れて風に打たるる目じるしの旗
ハックツノ アトヲソノママ シモカレテ カゼニウタルル メジルシノハタ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.105


08715
稲藁を焚きゐる塚はひとしきりのろしの如き煙あげたり
イナワラヲ タキヰルツカハ ヒトシキリ ノロシノゴトキ ケムリアゲタリ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.105


08716
こだまにも遅速のありてはるかなる雑木の山も芽ぐまむころか
コダマニモ チソクノアリテ ハルカナル ゾウキノヤマモ メグマムコロカ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.106


08717
梅園をくぐりて来れば絵馬堂の絵馬は木の音立てて吹かるる
バイエンヲ クグリテクレバ エマドウノ エマハキノオト タテテフカルル

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.106


08718
堪へ切れず垂るると如く中天を撓めてゆけり航跡雲は
タヘキレズ タルルトゴトク チュウテンヲ タワメテユケリ コウセキウンハ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.106


08719
雪どけに濁れるを見て去らむとす澄みゆくまでの時間も知らず
ユキドケニ ニゴレルヲミテ サラムトス スミユクマデノ ジカンモシラズ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.106


08720
県境の村はたちまち暮れゆきて夜に見る梅はつぶつぶの白
ケンキョウノ ムラハタチマチ クレユキテ ヨニミルウメハ ツブツブノシロ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.106


08721
瓶の形をそのまま包める持ちものを横にして膝に置ける少女は
ビンノカタチヲ ソノママクルメル モチモノヲ ヨコニシテヒザニ オケルショウジョハ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.106


08722
日だまりの斑雪を掻きてゐたりしが首たてて鳴く牝鶏一羽
ヒダマリノ ハダレヲカキテ ヰタリシガ クビタテテナク メンドリイチワ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.107


08723
種を採る菜のみひと畝残されて匂ふばかりの黒土となる
タネヲトル ナノミヒトウネ ノコサレテ ニオフバカリノ クロツチトナル

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.107


08724
学用品の広告が今朝も配られぬ太郎も次郎もあらぬわが家に
ガクヨウヒンノ コウコクガケサモ クバラレヌ タロウモジロウモ アラヌワガヤニ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.107


08725
犬を曳く少年が行き夕刊の薄きが届き冬の日暮れぬ
イヌヲヒク ショウネンガユキ ユウカンノ ウスキガトドキ フユノヒクレヌ

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.107


08726
膝つきてボタンつけをればいつの日の夕べにか似て雨の音する
ヒザツキテ ボタンツケヲレバ イツノヒノ ユウベニカニテ アメノオトスル

『歌壇』(本阿弥書店 1988.5) 第2巻5号 p.107