目次
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全短歌(歌集等)
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歌壇
十指を寄せて
幾人も
ひきだしに
促さるる
妹の
なかで何か
すり減りて
どのあたり
双体の
見しことの
椅子の音
種子の袋と
聞き役に
われの名も
ビニールの
どのやうに
かたまれる
臘梅に
真実を
黄のセダンの
緋の房の
08727
幾人も住むかのやうに灯をともすフランスパンを抱き帰り来て
イクニンモ スムカノヤウニ ヒヲトモス フランスパンヲ ダキカエリキテ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.10
08728
ひきだしに沈めし鍵を探しゐて鍵のみを探しゐるにもあらず
ヒキダシニ シズメシカギヲ サガシヰテ カギノミヲサガシ ヰルニモアラズ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.10
08729
促さるる思ひ湧きたりカステラを切るぎざぎざのナイフ出で来て
ウナガサルル オモヒワキタリ カステラヲ キルギザギザノ ナイフイデキテ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.11
08730
妹のまだ居たるころ風呂釜に二列に点るガスの火ありき
イモウトノ マダイタルコロ フロガマニ ニレツニトモル ガスノヒアリキ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.11
08731
なかで何か起こりゐるとも知らぬまま持ち歩く箱のごとし体は
ナカデナニカ オコリヰルトモ シラヌママ モチアルクハコノ ゴトシカラダハ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.11
08732
すり減りて浅き石段ありにしが順礼に出づるよはひも過ぎぬ
スリヘリテ アサキイシダン アリニシガ ジュンレイニイヅル ヨハヒモスギヌ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.11
08733
どのあたりまでを知りゐて声合はせ「あの子が欲しい」などと唱へり
ドノアタリ マデヲシリヰテ コエアハセ 「アノコガホシイ」 ナドトウタヘリ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.11
08734
双体の道祖神立つ落ち葉みち小犬は白き息を吐き行く
ソウタイノ ドウソシンタツ オチバミチ コイヌハシロキ イキヲハキユク
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.11
08735
見しことの無しと言ひたるわれのため十指を寄せて百合の木の花
ミシコトノ ナシトイヒタル ワレノタメ ジッシヲヨセテ ユリノキノハナ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.12
08736
椅子の音しづまるまでに間のありて女性受講者百人ほどか
イスノオト シヅマルマデニ マノアリテ ジョセイジュコウシャ ヒャクニンホドカ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.12
08737
種子の袋と異なる色に咲きしとぞ白のポピイもやさしきものを
シュシノフクロト コトナルイロニ サキシトゾ シロノポピイモ ヤサシキモノヲ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.12
08738
聞き役に回りてあればふと立ちてジャスミンティーを入れ替へくれぬ
キキヤクニ マワリテアレバ フトタチテ ジャスミンティーヲ イレカヘクレヌ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.12
08739
われの名も思はぬかたにまじりゐて風の便りといふ便りあり
ワレノナモ オモハヌカタニ マジリヰテ カゼノタヨリト イフタヨリアリ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.12
08740
ビニールの桜吊る日も遠からじ風にゆれつつ今は繭玉
ビニールノ サクラツルヒモ トオカラジ カゼニユレツツ イマハマユダマ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.12
08741
どのやうにおろされにけむかの大き薬種問屋の看板などは
ドノヤウニ オロサレニケム カノオオキ ヤクシュドンヤノ カンバンナドハ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.13
08742
かたまれる帽子ちりぢりの黄の帽子橋より見えて河原小春日
カタマレル ボウシチリヂリノ キノボウシ ハシヨリミエテ カワラコハルビ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.13
08743
臘梅に近づけてゆく横顔に忘れがたみの面影を見つ
ロウバイニ チカヅケテユク ヨコガオニ ワスレガタミノ オモカゲヲミツ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.13
08744
真実を聞くはいつの日落ち合ひの水は突き上げ白煙を挙ぐ
シンジツヲ キクハイツノヒ オチアヒノ ミズハツキアゲ ハクエンヲアグ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.13
08745
黄のセダンのうしろのドアがしめられて何かが終はる思ひしたりき
キノセダンノ ウシロノドアガ シメラレテ ナニカガオハル オモヒシタリキ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.13
08746
緋の房の鼓見をればこと切れて何も見えなくなる日は寂し
ヒノフサノ ツヅミミヲレバ コトキレテ ナニモミエナク ナルヒハサビシ
『歌壇』(本阿弥書店 1991.4) 第5巻4号 p.13