目次
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全短歌(歌集等)
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短歌新聞
サブリナの靴
手袋に
道幅を
花火のごとき
つぶやきの
亡き父の
何事か
焼き場など
目薬を
サブリナの
花のあと
杭抜きし
混信し
身を防ぐ
錫いろに
珈琲も
08800
手袋に十指収めて帰らむにチユールに透けて光るマニキユア
テブクロニ ジッシオサメテ カエラムニ チユールニスケテ ヒカルマニキユア
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08801
道幅を覆ひてビルの影深し全きわれの歩むにあらず
ミチハバヲ オオヒテビルノ カゲフカシ マッタキワレノ アユムニアラズ
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08802
花火のごときアガパンサスも過ぎむとしおもたき雨の日もすがら降る
ハナビノゴトキ アガパンサスモ スギムトシ オモタキアメノ ヒモスガラフル
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08803
つぶやきのふとよみがへりピタゴラスの定理といふを今に記憶す
ツブヤキノ フトヨミガヘリ ピタゴラスノ テイリトイフヲ イマニキオクス
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08804
亡き父の象牙の骰子をつね持ちて惑ひ絶ゆるといふこともなし
ナキチチノ ゾウゲノサイコロヲ ツネモチテ マドヒタユルト イフコトモナシ
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08805
何事かありて駆けゆく犬に会ひ道はふたたびひるがほの坂
ナニゴトカ アリテカケユク イヌニアヒ ミチハフタタビ ヒルガホノサカ
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08806
焼き場などあると聞かねど野の果てを吹きちぎられて煙飛ぶ見ゆ
ヤキバナド アルトキカネド ノノハテヲ フキチギラレテ ケムリトブミユ
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08807
目薬をさしてしばらく眼閉づまぼろしばかり見つつ過ぎむか
メグスリヲ サシテシバラク マナコトヅ マボロシバカリ ミツツスギムカ
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08808
サブリナの靴履くこともなく置きてをりをりさびし妹の唄
サブリナノ クツハクコトモ ナクオキテ ヲリヲリサビシ イモウトノウタ
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08809
花のあとしげみ深めて柘植のあり賑はふこともなき門先に
ハナノアト シゲミフカメテ ツゲノアリ ニギハフコトモ ナキカドサキニ
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08810
杭抜きし跡のくぼみのくれぐれに光りつつ水のたまれるも知る
クイヌキシ アトノクボミノ クレグレニ ヒカリツツミズノ タマレルモシル
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08811
混信し切れたる電話思はざる呪縛となりて暑き日のくれ
コンシンシ キレタルデンワ オモハザル ジュバクトナリテ アツキヒノクレ
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08812
身を防ぐ偽りのみは許されよ岬のかげとなりゆく港
ミヲフセグ イツワリノミハ ユルサレヨ ミサキノカゲト ナリユクミナト
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08813
錫いろにくれゆく空を遠ざかり生きて還らむ鳩と思はず
スズイロニ クレユクソラヲ トオザカリ イキテカエラム ハトトオモハズ
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.
08814
珈琲も断ちて癒えゆく日を待つに不意のごとくに咲く合歓の花
コーヒーモ タチテイエユク ヒヲマツニ フイノゴトクニ サクネムノハナ
『短歌新聞』(短歌新聞社 1969.8) p.