草食獣


08866
やみがたく一夜一夜を目盛りとしはるかに人を置きて来りぬ
ヤミガタク ヒトヨヒトヨヲ メモリトシ ハルカニヒトヲ オキテキタリヌ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08867
降りやまぬ雪を見をれば逃げ道をふさがれてしまふけものもあらむ
フリヤマヌ ユキヲミヲレバ ニゲミチヲ フサガレテシマフ ケモノモアラム

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08868
草食獣の鹿さへ原を追はるると読みてよりはかどる仕事の如し
ソウショクジュウノ シカサヘハラヲ オハルルト ヨミテヨリハカドル シゴトノゴトシ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08869
傍観してをれずに言へばわが肩にかかり来む荷のまざまざと見ゆ
ボウカンシテ ヲレズニイヘバ ワガカタニ カカリコムニノ マザマザトミユ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08870
砂を嚙む一日なりしが帰る雲往く雲もみな茜に染まる
スナヲカム ヒトヒナリシガ カエルクモ ユククモモミナ アカネニソマル

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08871
新しき家といふとも夜に帰り鍵穴をさぐる思ひかはらぬ
アタラシキ イエトイフトモ ヨニカエリ カギアナヲサグル オモヒカハラヌ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08872
継ぎ足しの歩廊の下の赤土に霜光る見ゆ日の昇り来て
ツギタシノ ホロウノシタノ アカツチニ シモヒカルミユ ヒノノボリキテ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08873
駅前の広場にあがる噴水の穂と気づく間に電車は発ちぬ
エキマエノ ヒロバニアガル フンスイノ ホトキヅクマニ デンシャハタチヌ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08874
山ひだの雪の黄いろにかげる日は寒しと思ふ朝々に見て
ヤマヒダノ ユキノキイロニ カゲルヒハ サムシトオモフ アサアサニミテ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08875
風呂敷の紺にくるまれ鳥籠のかたちのままを運び去られつ
フロシキノ コンニクルマレ トリカゴノ カタチノママヲ ハコビサラレツ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08876
詫びたくて訪ね来しかと思ひたるわれをやさしむ帰られてのち
ワビタクテ タズネコシカト オモヒタル ワレヲヤサシム カエラレテノチ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08877
クッキーの形抜きをれば花びらも星のかちも美しからず
クッキーノ カタヌキヲレバ ハナビラモ ホシノカタチモ ウツクシカラズ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08878
奪ひしはわれにあらずと言ひ張りて夢にも告げず人の名などは
ウバヒシハ ワレニアラズト イヒハリテ ユメニモツゲズ ヒトノナナドハ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08879
乗り継ぎを時刻表に調べゐたりしが岬々に夜をわが遊ぶ
ノリツギヲ ジコクヒョウニシラベ ヰタリシガ ミサキミサキニ ヨヲワガアソブ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.


08880
エッグノックに酔ひしは昨夜すきとほる元のグラスに戻して蔵ふ
エッグノックニ ヨヒシハサクヤ スキトホル モトノグラスニ モドシテシマフ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1978.2.10) p.