印度の果実


08882
残さるることも幾たび夕立に袖濡らし来し喪服を吊るす
ノコサルル コトモイクタビ ユウダチニ ソデヌラシコシ モフクヲツルス

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


08883
地上にていまだなすべきことあらむ戻り来りし思ひに坐る
チジョウニテ イマダナスベキ コトアラム モドリキタリシ オモヒニスワル

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


08884
人のともす星にかあらむ急速に灯を殖やしゆく丘の団地は
ヒトノトモス ホシニカアラム キュウソクニ ヒヲフヤシユク オカノダンチハ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


08885
敗れたる牛は如何にか映像は勝てる牡牛をしばらく見しむ
ヤブレタル ウシハイカニカ エイゾウハ カテルオウシヲ シバラクミシム

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


08886
うつむきて印度の果実むきをればやいばはつねにわが胸に向く
ウツムキテ インドノカジツ ムキヲレバ ヤイバハツネニ ワガムネニムク

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


08887
旧道のほとりの草に風騒ぎ雷の音の遠く聞こゆる
キュウドウノ ホトリノクサニ カゼサワギ カミナリノオトノ トオクキコユル

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


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そよがぬ木そよぐ木あまた茂るなか夾竹桃は紅くかたまる
ソヨガヌキ ソヨグキアマタ シゲルナカ キョウチクトウハ アカクカタマル

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


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洋館は林の奥に建ちゐしがコリー犬などいかになりけむ
ヨウカンハ ハヤシノオクニ タチヰシガ コリーケンナド イカニナリケム

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


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語部も占部も遠く去りし世に鞠をいだけり石の狐は
カタリベモ ウラベモトオク サリシヨニ マリヲイダケリ イシノキツネハ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


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石像のいだける琵琶の鳴り出づる夜もありにけむ風のまにまに
セキゾウノ イダケルビワノ ナリイヅル ヨモアリニケム カゼノマニマニ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


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旋回しゐたりし鳩のわらわらと地上に降りてついばみはじむ
センカイシ ヰタリシハトノ ワラワラト チジョウニオリテ ツイバミハジム

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


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終りまで聞きてよりものを言ふ習ひながき勤めに培ひて来し
オワリマデ キキテヨリモノヲ イフナラヒ ナガキツトメニ ツチカヒテコシ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


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殺気のごときひとすぢ走りすぎしのみすぐコーヒーは運ばれて来ぬ
サッキノゴトキ ヒトスヂハシリ スギシノミ スグコーヒーハ ハコバレテキヌ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


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卓上の駱駝のランプ人の来て背中に赤き灯をともしたり
タクジョウノ ラクダノランプ ヒトノキテ セナカニアカキ ヒヲトモシタリ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.


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何事もなかりし如し球体の感じもあらで残月うかぶ
ナニゴトモ ナカリシゴトシ キュウタイノ カンジモアラデ ザンゲツウカブ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1983.8.10) p.