夜櫻を見む


08987
葉桜の吉野の山を訪ひしとぞ甘味の葛を送りたまひぬ
ハザクラノ ヨシノノヤマヲ トヒシトゾ カンミノクズヲ オクリタマヒヌ

『短歌公論』(短歌公論社 1989.11.1) p.3


08988
暖色の傘を選びて差し来しが無言の犬に見られて通る
ダンショクノ カサヲエラビテ サシコシガ ムゴンノイヌニ ミラレテトオル

『短歌公論』(短歌公論社 1989.11.1) p.3


08989
桃いろのヘアピンレースさながらに路上に合歓の花は濡れゐつ
モモイロノ ヘアピンレース サナガラニ ロジョウニネムノ ハナハヌレヰツ

『短歌公論』(短歌公論社 1989.11.1) p.3


08990
沐浴をすませて匂ふ女童(めわらは)が隣にゐたる日のある如し
モクヨクヲ スマセテニオフ メワラハガ トナリニヰタル ヒノアルゴトシ

『短歌公論』(短歌公論社 1989.11.1) p.3


08991
近道を教へて電話切りにしが迷ひてゐずや竹の落ち葉に
チカミチヲ オシヘテデンワ キリニシガ マヨヒテヰズヤ タケノオチバニ

『短歌公論』(短歌公論社 1989.11.1) p.3


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来む春も必ず生きて夜桜を見むと人にも今日は言ひたり
コムハルモ カナラズイキテ ヨザクラヲ ミムトヒトニモ キョウハイヒタリ

『短歌公論』(短歌公論社 1989.11.1) p.3


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フィナーレに近づかむとし早まりて一個あがれる風船赤し
フィナーレニ チカヅカムトシ ハヤマリテ イッコアガレル フウセンアカシ

『短歌公論』(短歌公論社 1989.11.1) p.3