目次
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全短歌(歌集等)
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俳句とエッセイ
砂文字
ワゴンの上に
店先に
音もなく
暗渠より
夕闇の
つまづきて
岬幾つ
知り得たる
戦ひの
光りつつ
砂浜に
すさまじき
砂文字を
日のあたる
降り立ちて
惑はしの
窓打つを
いつまでも
踏絵踏む
滅多には
09053
ワゴンの上に溢れて花の売られゐつ人を送り来て駅を出づれば
ワゴンノウエニ アフレテハナノ ウラレヰツ ヒトヲオクリキテ エキヲイヅレバ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.40
09054
店先にダンボール踏み潰しをり何かいさぎよき思ひのごとし
ミセサキニ ダンボールフミ ツブシヲリ ナニカイサギヨキ オモヒノゴトシ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.40
09055
音もなくすり抜けゆきし自転車の林の道へ入りたるが見ゆ
オトモナク スリヌケユキシ ジテンシャノ ハヤシノミチヘ イリタルガミユ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41
09056
暗渠よりまろび出でたるゴム鞠の一直線に流れゆきたり
アンキョヨリ マロビイデタル ゴムマリノ イッチョクセンニ ナガレユキタリ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41
09057
夕闇の畑に人の影うごきカタコンベなど掘るにあらずや
ユウヤミノ ハタケニヒトノ カゲウゴキ カタコンベナド ホルニアラズヤ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41
09058
つまづきて五体ほどけしときのまに野火の匂ひにとりかこまれぬ
ツマヅキテ ゴタイホドケシ トキノマニ ノビノニオヒニ トリカコマレヌ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41
09059
岬幾つ越えて届くやこの世ならぬ音に午報のサイレン聞こゆ
ミサキイクツ コエテトドクヤ コノヨナラヌ オトニゴホウノ サイレンキコユ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41
09060
知り得たることもすべなく歩めるにジグザグなして波の引きゆく
シリエタル コトモスベナク アユメルニ ジグザグナシテ ナミノヒキユク
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41
09061
戦ひの日のことのみを語りつぎ虹立つ空を人は見ざりき
タタカヒノ ヒノコトノミヲ カタリツギ ニジタツソラヲ ヒトハミザリキ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42
09062
光りつつ岬をめぐりて消えしものヨットの白帆のみと思へず
ヒカリツツ ミサキヲメグリテ キエシモノ ヨットノシラホ ノミトオモヘズ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42
09063
砂浜に日ざし移ろひ影踏みをしてゐし子らもいつしか在らず
スナハマニ ヒザシウツロヒ カゲフミヲ シテヰシコラモ イツシカアラズ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42
09064
すさまじき海の入り日よかの島に全滅したる一隊ありき
スサマジキ ウミノイリヒヨ カノシマニ ゼンメツシタル イッタイアリキ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42
09065
砂文字を消して引く波寄する波不意に見知らぬ顔がふり向く
スナモジヲ ケシテヒクナミ ヨスルナミ フイニミシラヌ カオガフリムク
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42
09066
日のあたる坂道の目に見えながらいづち行きけむ少女のわれは
ヒノアタル サカミチノメニ ミエナガラ イヅチユキケム ショウジョノワレハ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42
09067
降り立ちてよしなき反故を燃しゐるに今朝の雀はみなよく啼けり
オリタチテ ヨシナキホゴヲ モシヰルニ ケサノスズメハ ミナヨクナケリ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43
09068
惑はしの言葉のごとく大津絵にほつつり赤し椿の花は
マドハシノ コトバノゴトク オオツエニ ホツツリアカシ ツバキノハナハ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43
09069
窓打つを風の気配と知るまでのつかのまありてまたさびしけれ
マドウツヲ カゼノケハイト シルマデノ ツカノマアリテ マタサビシケレ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43
09070
いつまでも枯れゐる声をあはれまれ電話を切ればまた風の音
イツマデモ カレヰルコエヲ アハレマレ デンワヲキレバ マタカゼノオト
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43
09071
踏絵踏む足の次々あらはるる夢醒めて寒しわれのあなうら
フミエフム アシノツギツギ アラハルル ユメサメテサムシ ワレノアナウラ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43
09072
滅多にはあらぬことにて揃へやる男の靴の大きかりしか
メッタニハ アラヌコトニテ ソロヘヤル オトコノクツノ オオキカリシカ
『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43