目次
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全短歌(歌集等)
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文芸埼玉
鳥となりても
出で入りの
胸もとに
ゆらめきて
あくる日の
鳴くことも
ひろげたる
長雨に
事務室の
かさかさと
蛇いちご
09079
出で入りのはげしくなれるドアが見ゆ次第に何の迫らむとして
イデイリノ ハゲシクナレル ドアガミユ シダイニナンノ セマラムトシテ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1968.11) 1号 p.69
09080
胸もとに梢の影の落ちて来て目を病むことの不意に寂しき
ムナモトニ コズエノカゲノ オチテキテ メヲヤムコトノ フイニサビシキ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1968.11) 1号 p.69
09081
ゆらめきて紙などの泳ぐ水のなかどのあたりまでわれは行きしや
ユラメキテ カミナドノオヨグ ミズノナカ ドノアタリマデ ワレハユキシヤ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1968.11) 1号 p.69
09082
あくる日の職場に問へど夜の更けに降りゐたる雨を知れる人なし
アクルヒノ ショクバニトヘド ヨノフケニ フリヰタルアメヲ シレルヒトナシ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1968.11) 1号 p.69
09083
鳴くこともあらず越えゆく沼の上鳥となりてもさびしきわれか
ナクコトモ アラズコエユク ヌマノウエ トリトナリテモ サビシキワレカ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1968.11) 1号 p.69
09084
ひろげたる五指かざすとき遠のきて芽ぐむ梢のごとくうるほふ
ヒロゲタル ゴシカザストキ トオノキテ メグムコズエノ ゴトクウルホフ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1968.11) 1号 p.69
09085
長雨にべにばなも摘まず終りたり瞼を押せば涙出で来る
ナガアメニ ベニバナモツマズ オワリタリ マブタヲオセバ ナミダイデクル
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1968.11) 1号 p.69
09086
事務室のガラス拭かれてゐながらに見ゆる枯れ野のまぶしくなりぬ
ジムシツノ ガラスフカレテ ヰナガラニ ミユルカレノノ マブシクナリヌ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1968.11) 1号 p.69
09087
かさかさと鳴る藁の束街の灯も駅も隠れてしまふまで積む
カサカサト ナルワラノタバ マチノヒモ エキモカクレテ シマフマデツム
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1968.11) 1号 p.69
09088
蛇いちご花黄に湧ける野を行きてともなへる人を俄かに怖る
ヘビイチゴ ハナキニワケル ノヲユキテ トモナヘルヒトヲ ニワカニオソル
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1968.11) 1号 p.69