人のこゑ


09099
遊歩路に灯のともる見つつ帰りゆくたのむ思ひもかそかになりて
ユウホロニ ヒノトモルミツツ カエリユク タノムオモヒモ カソカニナリテ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1970.11) 4号 p.91


09100
失ふに惜しく残れる何あらむすり抜けてゆく夜の人ごみを
ウシナフニ オシクノコレル ナニアラム スリヌケテユク ヨノヒトゴミヲ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1970.11) 4号 p.91


09101
押すこともあらず押されて歩む身をわれと笑ひて改札を出づ
オスコトモ アラズオサレテ アユムミヲ ワレトワラヒテ カイサツヲイヅ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1970.11) 4号 p.91


09102
ミシン踏めばミシンの音に紛れゆき憎まるるほどの事もなし得ぬ
ミシンフメバ ミシンノオトニ マギレユキ ニクマルルホドノ コトモナシエヌ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1970.11) 4号 p.91


09103
肘痛むときに思へりスヰフトは予言してつひに人を死なしめき
ヒジイタム トキニオモヘリ スヰフトハ ヨゲンシテツヒニ ヒトヲシナシメキ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1970.11) 4号 p.91


09104
機械音くぐもる地下の書庫にゐて人のこゑよりわれは乱れず
キカイオン クグモルチカノ ショコニヰテ ヒトノコヱヨリ ワレハミダレズ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1970.11) 4号 p.91


09105
十年目のわが犬のため朱の色の首輪サイズを確かめて買ふ
ジュウネンメノ ワガイヌノタメ シュノイロノ クビワサイズヲ タシカメテカフ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1970.11) 4号 p.91


09106
隣より洩れくる議事のはげしきに一人のこゑを聞き分けてゐつ
トナリヨリ モレクルギジノ ハゲシキニ ヒトリノコヱヲ キキワケテヰツ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1970.11) 4号 p.91


09107
発車待つバスにゐたれば対岸の日あたるビルは窓暗く見ゆ
ハッシャマツ バスニヰタレバ タイガンノ ヒアタルビルハ マドクラクミユ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1970.11) 4号 p.91


09108
屋上にしづまりゐたる旗一枚不意によぢれて降ろされゆけり
オクジョウニ シヅマリヰタル ハタイチマイ フイニヨヂレテ オロサレユケリ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1970.11) 4号 p.91