目次
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全短歌(歌集等)
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文芸埼玉
力湧き来よ
坐りても
狼煙あがる
遅れゐる
してやらむ
われを離れし
歩むこと
位置かへて
雨あとの
生まれかはる
これ以上
09109
坐りても立ちても雨の音あふれ今年は犬も妹もゐず
スワリテモ タチテモアメノ オトアフレ コトシハイヌモ イモウトモヰズ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1973.3) 9号 p.126
09110
狼煙あがる空はいづこかわざはいは怖るるものにのみ来るといふ
ノロシアガル ソラハイヅコカ ワザハイハ オソルルモノニ ノミクルトイフ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1973.3) 9号 p.126
09111
遅れゐるバスを待ちつつ悲しみは不意に怒りのやうに噴き上ぐ
オクレヰル バスヲマチツツ カナシミハ フイニイカリノ ヤウニフキアグ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1973.3) 9号 p.126
09112
してやらむこと何もなく名を呼びて水を替へたる花籠を置く
シテヤラム コトナニモナク ナヲヨビテ ミズヲカヘタル ハナカゴヲオク
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1973.3) 9号 p.126
09113
われを離れしわれのもろ手はたをやかに黒と銀との水引を結ふ
ワレヲハナレシ ワレノモロテハ タヲヤカニ クロトギントノ ミズヒキヲユフ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1973.3) 9号 p.126
09114
歩むことやめて見をれば万象の音を吸ひ込むやうな没り日よ
アユムコト ヤメテミヲレバ バンショウノ オトヲスヒコム ヤウナイリヒヨ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1973.3) 9号 p.126
09115
位置かへて鳴き続けゐる虫のこゑ木の立ててゐる声かと思ふ
イチカヘテ ナキツヅケヰル ムシノコヱ キノタテテヰル コエカトオモフ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1973.3) 9号 p.126
09116
雨あとのしづくを落とす松を見て指の先までほほけて坐る
アメアトノ シヅクヲオトス マツヲミテ ユビノサキマデ ホホケテスワル
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1973.3) 9号 p.126
09117
生まれかはることのありとも物陰をうそうそ這ふ虫などにはなるな
ウマレカハル コトノアリトモ モノカゲヲ ウソウソハフムシ ナドニハナルナ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1973.3) 9号 p.126
09118
これ以上失ふものは残りゐず腕力のごとき力湧き来よ
コレイジョウ ウシナフモノハ ノコリヰズ ワンリョクノゴトキ チカラワキコヨ
『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1973.3) 9号 p.126