馬の数のみ


09124
怖るるを知るはいつの日幼な子は蛇のかたちをゑがきて倦まず
オソルルヲ シルハイツノヒ オサナゴハ ヘビノカタチヲ ヱガキテウマズ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1979.3) 21号 p.90


09125
四肢高き馬のほとりにゐし夢の馬の数のみ殖えてゆきたり
シシタカキ ウマノホトリニ ヰシユメノ ウマノカズノミ フエテユキタリ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1979.3) 21号 p.90


09126
雨乞ひの太鼓の音の響きゐし故郷はあらずどの地図見ても
アマゴヒノ タイコノオトノ ヒビキヰシ コキョウハアラズ ドノチズミテモ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1979.3) 21号 p.90


09127
遠くにてサイレン鳴れり忘れゐし欲望を呼び醒ますごとくに
トオクニテ サイレンナレリ ワスレヰシ ヨクボウヲヨビ サマスゴトクニ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1979.3) 21号 p.90


09128
ガラス戸の棧に足首切られたるわが映像を見て立ち尽くす
ガラスドノ サンニアシクビ キラレタル ワガエイゾウヲ ミテタチツクス

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1979.3) 21号 p.90


09129
音もなくクレーンの鉤の垂りて来て路上のたれを奪はむとする
オトモナク クレーンノカギノ タリテキテ ロジョウノタレヲ ウバハムトスル

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1979.3) 21号 p.91


09130
うるほひて固まる砂と思ふまで鎮まりてありこよひのわれは
ウルホヒテ カタマルスナト オモフマデ シズマリテアリ コヨヒノワレハ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1979.3) 21号 p.90


09131
菜の花の穂先まで咲きて咲き終へぬ思ひ遂ぐるといふやさしさに
ナノハナノ ホサキマデサキテ サキオヘヌ オモヒトグルト イフヤサシサニ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1979.3) 21号 p.90


09132
コップのなかの嵐と思ひ至るまで時間をかけて苦しむあはれ
コップノナカノ アラシトオモヒ イタルマデ ジカンヲカケテ クルシムアハレ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1979.3) 21号 p.90


09133
ぬけ出でていづくへ行かむ月明にひとすぢ光る水路のあらば
ヌケイデテ イヅクヘユカム ゲツメイニ ヒトスヂヒカル スイロノアラバ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1979.3) 21号 p.90