冬の桜


09144
真相は知らるる無くて風のあとさだかに匂ふひひらぎの花
シンソウハ シラルルナクテ カゼノアト サダカニニオフ ヒヒラギノハナ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1993.12) 50号 p.172


09145
をみなゆゑ天人もみごもる日のありと聞きて壁画の前を離れぬ
ヲミナユヱ テンニンモミゴモル ヒノアリト キキテヘキガノ マエヲハナレヌ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1993.12) 50号 p.172


09146
病む前も今もかはらず雉子鳩はとほろとほろと朝を啼くなり
ヤムマエモ イマモカハラズ キジバトハ トホロトホロト アサヲナクナリ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1993.12) 50号 p.172


09147
をさな子の母を呼ぶ声そのままにかさねて若き妻を呼ぶ声
ヲサナゴノ ハハヲヨブコエ ソノママニ カサネテワカキ ツマヲヨブコエ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1993.12) 50号 p.172


09148
子も親もみな出払ひて昼餉どきこの界隈に人をらぬとぞ
コモオヤモ ミナデハラヒテ ヒルゲドキ コノカイワイニ ヒトヲラヌトゾ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1993.12) 50号 p.172


09149
病院の小春日和に満開といへどまばらよ冬の桜は
ビョウインノ コハルビヨリニ マンカイト イヘドマバラヨ フユノサクラハ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1993.12) 50号 p.172


09150
何を病む異国の人か樺いろのサリーまとひてさむざむと待つ
ナニヲヤム イコクノヒトカ カバイロノ サリーマトヒテ サムザムトマツ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1993.12) 50号 p.172


09151
箱眼鏡のぞきて余念なかりしが少年の名も少女もおぼろ
ハコメガネ ノゾキテヨネン ナカリシガ ショウネンノナモ ショウジョモオボロ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1993.12) 50号 p.172


09152
銀鱗のひらめくときを待ち待ちて人はおのれを釣るにかあらむ
ギンリンノ ヒラメクトキヲ マチマチテ ヒトハオノレヲ ツルニカアラム

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1993.12) 50号 p.172


09153
待ちかねてゐたるごとくに一散に飛び立ち行けり草の穂わたは
マチカネテ ヰタルゴトクニ イッサンニ トビタチユケリ クサノホワタハ

『文芸埼玉』(埼玉県教育委員会 1993.12) 50号 p.172